第五話 パツキンヤンキーとドローン 後編
現在、PS版のギレンの野望をプレイ中。ジオンの旗が第三帝国過ぎて慄いているところです。あれ怒られないのか。
ちなみに私は、根っからのギレン派です。キャスバル坊やも、紫マスクの姉上も、アクシズからのミンキーモモも認めません!世界は優良種たるスペースノイドと、その先兵たるジオン公国によって管理運営され、初めて永久に生き続けられるのである!ジークジオン!
ところで、ガンダムの世界では宇宙は、貧しい者たちが行く場所で金持ちは地上に残るという設定になっていますが(まあ、ガンダムだけでなくSF全般が宇宙や未開拓の惑星を昔のオーストラリアやアメリカのような感じで描いてるのですが。)、最近のニュースを見てると、現実はお金持ちが宇宙に行っていますね。
その内、地球に取り残された人間が、スペースノイドに戦いを挑むようなガンダム作品もあるかもしれませんね。
ちなみに、小さい頃にジオン好きになった人は大人になると、逆に連邦好きになるというのが僕の持論です。悪役かっけーな人程、設定を漁って、連邦のスペースノイドに対する所業を目の当たりにすると連邦、ティターンズに傾きます。
ジム・クゥエルとか、悪役ぽすぎてたまりません。ジオン系MSのモノアイという分かりやすい悪役デザインとは異なる、”体制側の悪役”っぷりがたまりません。こういう、体制的なデザイン萌えって人いませんかね。ソ連系のミリタリーのデザインってこういう感じがあると思うんですけど。戦車とか。
結構、地球連邦の組織としての運営とか兵器への思想(ボールとか、保守的な技術の後継機ばかりの所とか、パイロットのこと考えていないMAとか)はソ連ぽいところがあると思うんですがどうでしょう。
ていうかジオンが枢軸側をイメージしてるんだから、連邦はアメリカ、っていうよりは連合全体でイメージしているのか。
第五話「パツキンヤンキーとドローン後編」
背後を飛び回るドローンへの不審な視線を周りから感じながら、僕、坂本、ドローンは講堂を出て、
B館を経由して食堂へと向かっていた。
何故こんな回りくどいルートを使っているのか。
講堂は複数の柱によって支えられた、八角形の構造物が空中に浮かんでいるような構造である。
入るには、講堂の右隣のB館の三階から空中通路を利用して入るか、左となりのA館から、同じく空中通路を利用して入るしかない。
何故こんなややこしい構造をしているのか、籠城する時くらいしか、この構造についてのメリットを見出せない。
建築家のお遊びとしか思えない構造である
ちなみに、柱に支えられた八角形の下は、常時日陰となっていることと、ベンチが置いてあるため生徒の憩いの場ともなっている。
昨日もベンチに座って弁当を食べさせあうカップルがいて、思いっきり顔を歪めながら、そのそばを通った。
カップルのどちらかが、この嫉妬にまみれた僕の顔を見て、幸せいっぱいのムードの中にのどに刺さった小骨のように、嫌な物を感じてくれたらこれ以上の喜びはない。
横を歩いていた坂本は可哀想なものを見る目でこちらを見ていた。はなはだ遺憾である。
B館の階段を下り終え、一階の出口から外に出る。講堂の下に目を向けるとやはり、幾組かのカポーが仲睦まじく弁当を食べている。
心の中で中指を立て、災いあれと念じながらB館のそばの中庭を通り、食堂へと向かう。
この大学では基本的に、一コマ一時間半の授業が午前と午後に二コマづつある。
先程、二コマ目の授業コンピュータサイエンスが終わったため、今は昼休みだ。
昨日の昼休みの争奪戦を目撃した僕らは、多少の早歩き……一体は飛んでいるが、で食堂へ向かっていた。
「で、今日の放課後その新入生歓迎会に行くんだろ?」坂本が顔だけこちらに向けて問いかけてくる。
「そうだ。本当は昨日だったんだが、キャンプ帰りの疲れた一年生達からの強い反対で今日に延期されたらしい」
かくいう、自分も歓迎会延期の声を挙げた者達の一人だ。
キャンプ帰りのバスの中から、A-Talkで明日は無理だというメッセージを延々と岡田先輩に送り続けた。
十件を越えた辺りで、延期になったらしいぞ、というメッセージが返ってきた。
らしい、って何だと思いながらも、その一文に安心した僕は、そのまま坂本の隣の座席で夢の中に落ちていった。
坂本曰く、死ぬほど疲れ切ったような、深い深い眠りだったそうだ。
他の同級生達が疲れていながらも、生還の喜びを分かち合って大騒ぎする余裕はあったという事を聞くと、やはりあのロッジハウスでナニカサレテイタのかもしれない。
まあ、歓迎会が中止になっても、授業は普通にあったのだが。それでも放課後がつぶされないだけ、十分楽である。
余談だが、昨日の大学生協でのエナジードリンクの売上げは凄まじいものだったそうな。
「ああ~!いいなあ!俺も噂のアーカム棟に入ってみてえな!」
「アーカムって何だ?クラブハウスのことか?」
「おっ!聞きたいか!教えてやろう。昼飯をおごれ!」
「じゃあ、いい」
「冗談だよ!教えてやるから有難く聞けよ?」
とりあえず、食堂の席確保してからな、と言う坂本。
うっとおしい奴。
この男は、どうにも話すことをいちいち遠回しにする癖がある。
物事を迂遠に言うとかではなく、会話の途中に意味の無いワンテンポを挟んでくるのだ。
RPGで答えがYESかNOかあらかじめ決まっているのにも関わらず、いちいち選択肢を出してくるモブみたいなものである。
普通の会話中なら許すが、切羽詰まった状況でこれをやられたら、その破廉恥に染まった金髪をむんず、と掴むくらいはするかもしれない。
そんなことを考えていると、くの字も様な軌道を通ってドローンが左からこちらに回り込んできた。ディスプレイにはメッセージが浮かんでいる。
「おい、私は充電のために離脱するからな( ゜Д゜)ノ私がいないからって寂しがるんじゃないぞ(-∀-)」
「やかましい!あっち行け!」
坂本がしっしっと右手を、ドローンに向けて振る。
「三コマに会おうなー(=o=)/~~~」と表示して浮上するドローン。みるみる内に、講堂を越えて、何処かへと向かう。
「何処で充電してるんだろうな」
「知らん。そんなことより、僕たちも早く充電に行こう」
手を目の上にかざし、青空に消えていくドローンを見ながら、疑問を口にする坂本に答える。
そのままスピードを速め、もはや競歩のようなスピードで坂本と二人で食堂に向かう。
本来なら走って行きたいところだが、昨日走っていて、執行委員会に吊し上げられていた学生を目撃したため、ぎりぎり走るか走らないかで、急ぎ、しかし慌てず、優雅さを保って食堂へと向かっているのだ。
執行委員会も一応学生であるためか、授業中は動かず、昼休みや放課後に主に活動しているようだ。
その特徴的な赤い軍服は、混雑したお昼時でも非常に目立つため、登場するとすぐに誰かが気が付く。
誰しも面倒事は避けたいのか、委員が現れると目を合わせないようにしながら、そそくさと、その場を離れていく。
「そんなに、監視しなくちゃいけない程なのかね。この学校は」
「……監視しなくちゃいけない程かもしれないな」
「うん?」
「あっちを見てみろよ」
坂本があごを向けた前方の方に目線を向ける。
食堂へ向かう生徒の群れのなかに、ぽっかりとあいた空間があり、そこには白衣を着た長身の男が不自然に前に傾いた猫背で歩いていた。
「大学なんだから白衣くらい来ている人もいるだろ?教授か実験帰りの学生かもしれない。ちょっと不自然な扱いをしているからといって、あごでしゃくるというのは、どうかと……」
「ちっげえよ!あいつが押しているものを見てみろ」
小声で叫ぶという奇妙な真似をしながら、前方の男を今度は指さす坂本。
本当に失敬な奴だ。
押している、という言葉を聞いて白衣の男の前を見るため、横から覗き込むように首を回り込ませる。
先程は、白衣の男の後ろから見ていたため、背に隠れて前に何があるかが見えなかったが、今度ははっきりと見える。
男は、その長身を折り曲げながら、春にしては、厚着な女性が座った車いすを押していた。
それだけだったら、まあ殊勝な行動だなといった所で終わるところだ。
この男がそれで終わらないのは、載せている女性が、どうみても生身の人間に見えない……はっきり言えば人形であること、それにも関わらず、絶えず男が口を動かし、何事か人形に向かって語りかけていることだ。
車椅子に座っている人形の、運ばれる家具のような、ショックを吸収しきれていない、生物らしくない無機質な振動のしかた、プラスチックのような金色の髪質、糸の切れた操り人形のような、脱力感のある姿勢といった諸々の要素がそれが人形であることを主張していた。
「見えたか」
「ああ」
口にせずとも、気持ちが通じたか。歩く速度をあげ、男の右から弧を描くように追い越そうとする僕たち。この光景をこれ以上視界に入れていると、正気を失いそうだ。
何が恐ろしいかって、この悪夢のような状況にも関わらず、特に反応しない上級生たちである。見覚えのある同級生達が多かれ少なかれ、この光景に慄いているといのに、上級生たちはこれが日常であるとばかりに、人形と白衣の男の奇妙な二人の空間を提供するだけで何も動揺する様子を見せていない。談笑する者までいる。
早歩きをして追い越そうとする僕たちと白衣の男と人形が横一直線に並ぶ。
中庭は、太陽がきらめき、花壇には花が咲き、蝶がつがいと愛を育みながら、暖かい春を謳歌しているというのに、僕たちの背筋には冷たいものが走り続けている。
見ない方がいいと頭では分かっていながらも好奇心に負け、横目で様子を伺う僕。
白衣の男の、ワカメのようにもじゃもじゃとした髪から、のぞくその右目には、漫画でしか見たことがないようなモノクルがかかっている。
ここで、この人は先程の授業で教授に命令され壇上に度々上がっていた男であることに気づく。
そのまま、車椅子を押す長い腕に視線をつたらせ、人形の方に目を向ける。
上半身はゴシック的な、フリルのある、袖口が広がった白いブラウスに身を包まれており、胸元の赤いリボンタイが眼を惹くワンポインとなっている。
下半身はコルセットが着用されているのがかろうじて分かるだけで、後はひざ掛けに隠れて判別不能である。
外から見て、一目見て人形だと、はっきりと判断出来る部分は、やはり皮膚であろう。
白磁のような、生身の人間にはありえないどこまでも滑らかな、一点の曇りもない皮膚
ただ白いだけでなく、純粋な白人種に見られるような、身体の表面を這う血管が見える透き通った透明感のある白みが人工である美しさを際立たせる。
そして、その美しい皮膚を節々で突如として断裂する、見る者に痛々しさを与える関節部。ビスクドールの球体をロボットの部品に置き換えたような、メカニックな関節部が美しいこの人形を間違いなく人間でないことを主張している。
形のいい頭部を飾るウェーブがかったショートの金髪は、陽光を透かして琥珀のようなきらめきを見せ、夢の国の住人のような非現実さを見せつける。
横から伺えるうつろと開きながらも夢見るような、群青と水色が混じった深海の如き瞳はガラス製だろうか。太陽光の反射が、生者のような光をその瞳に宿し、もしかしたらこの美しい人形が生きているのではないか、という淡い期待を見る者に抱かせずにはいられない。
「!?」
一瞬、人形の目が魚を思わせる、ぐりん、とした動きでこちらを向いたような気がした。
そんなはずは無い、と思い確認しようと思うのだが既に追い越しててしまったため、確認するには後ろを振り向くか、立ち止まって、相手が追い越すのを待たなければならない。
勿論、そんな危険は冒せないため、このまま坂本ともに距離を離すのに身を任せるしかない。
白昼夢のような出来事にしばし、呆然とする僕。背後からは、男が人形に語り掛ける声がぼそぼそと聞こえてくる。
この人形には、所有者を狂わせる魔性がきっとあるに違いない。
少し、観察した僕でもこうなるのだ。所有者と思われるあの男は、狂気の源泉に常に身を置いているようなものだろう。
「なあなあ」
奇妙なカップルを追い越し、今、目撃した美しいものへの恐れとそれに魅せられた哀れな男への憐れみを想っていると坂本が話しかけてくる。
同じ金髪の名を冠すとは思えない、成金がちらつかせる金のような、見せびらかすことを目的とした、安っぽい、品の無い金色の髪である。
「今の人形さ、あまり胸が大きくなかったな」
「………」
目の前には何時のまにか、大口を開けるクジラのように、空腹の学生達を呑み込んでいく食堂が迫っている。
「俺的には、もうちょっとこう、ふくよかな体型の方がいいと思うんだが」両腕で何かを抱えるような下劣なジェスチャーをする坂本。
「………」
開けっ放しになった自動ドアの周りでは、華奢な体系の女性の執行委員が学生達を見張っている。
学生達は牧童に引率される羊達の群れのように、おとなしく食堂に入っていく。
「いや、大きければいいって訳じゃないことは分かってんだよ。結局バストサイズってのは腰とヒップと身長との比率だからさ。でももうちょっとあっても…」
「………」
「おい、無視すんなよ!」
「黙ってろ!何が悲しくて人形への肉体的な欲求を、数少ない友人から聞かされなきゃなんないんだ!もうちょっと品のある感想をよこせよ!」
「いや、だってあれ*****だろ」
バラエティ番組だったらピー音か、銃声でかき消されそうな単語を公共の場でのたまう坂本。
こいつの頭はどうなっているんだ。
「馬鹿野郎!口を慎めよ!執行委員がそこにいるのが見えないのか!」
「いや、だけど、ありゃあどうみても***用に作られた*****だぜ。前にネットで見たけど***を****して****の***を**出来るんだってよ」
うわあああ!聞きたくない!聞きたくない
!さっきまでの僕の人形への純粋な感動を汚さないでくれ!
ていうかこんな所でそんな言葉を口走んなよ!
「おい、何考えてんだ!人前で口にしていいワードと悪いワードがあるだろ!TPOってもんを知らないのか!」
「構いやしねえよ。どうせ食堂にくるのなんて金の無い野郎どもだけなんだし。女子は構内の小洒落たカフェか、外のレストランにでも……」
「ちょ、ちょっと貴方達!」
突然の乱入者に揃って目を向ける僕と坂本
目の前には、赤面した女性の執行委員……バレッタで後ろ髪を留めた活動的な印象だ、が左手に腰を当て、右手で指差しながら僕らの前に立ちふさがっていた。
?この声何処かで聞いたような。
「この神聖な学び舎で、一体何て話をしているの!?」
「えっ!いや、俺たちはただ*****の話を……」
「坂本ぉ!」
坂本の両肩に手を乗せ、あらん限りの力で肉を掴む。
「痛い痛い痛い!何すんだよ!」
「こっちの台詞だよ!一体何考えてるんだ!相手は執行委員だし、しかも女子だぞ!」
小声で叫ぶという器用なことをしながら、この下品な友人に叱咤する。
「あ!?あー、すまん。さすがに女子の前で*****は無いよな」
「うるあぁぁぁ!」
「げふっ!」
またしても、下劣なことをのたまった坂本を黙らせようと、腹部に正拳突きをくらわす。
哀れかな、女性執行委員は、坂本の度重なる不埒な言葉に、呆然と口を開け、身体を震わせながら爆発しそうな位赤くなっている。
漫画だったらぷしゅー、という効果音と蒸気のエフェクトが似合いそうだ。
「は、は、破廉恥よ!猥雑よ!低俗よ!お、お天道様が出ている時から、そ、そ、そんな話を……恥を知りなさい!」
「ごめんなさい!こいつ、頭が空っぽで、自分が言っていることが寸分たりとも、分かっていない可哀想な奴なんです!許してやってください」
お腹を押さえて、くの時になっている坂本の頭を手で無理矢理押さえ、一緒に頭を下げる。
ちなみに、本当に連行されそうになったら、自分は無関係だといい、他人の振りをするつもりだ。
「いいえ、許さないわ!あ、貴方たち二人とも特別指導室に来てもら…」
「玲子」
背後から、凛としたしっかりした声で何者かの名前が呼ばれる。
振り向くと、縁なしメガネをかけたクールそうな女性の執行委員が立っていた。この声も聞き覚えがある気がするな。どこだったろうか。
眼鏡の執行委員は、履いているブーツのせいもあるだろうが非常に長身である。170は優に越えているだろう。
着ている軍服と冷たい印象のメガネも相まって、非常に高圧的に見える。この人に比べれば後ろの赤面した執行委員はチワワのようなものだ。
執行委員に注意されている僕たちを避けるようにして、学生達が次々と食堂に入っていく。学食残っているかな。
「知子!」
後ろのチワワがメガネの執行委員に声をかける。
メガネの女性は知子、後ろのチワワは玲子という名前らしい。名前の響きが両者の外見に今一合っていない気がする。
「何しているんですか。こんな人通りの多いところで。往来の邪魔でしょう」
「待った!ちょっと話を聞いて頂戴!この新入生達が、公共の場にはふさわしくない話を」
「はあ、またですか。いいですか玲子、この位の殿方というものは、常時発情した野猿のようなものなのですから、一々その浅ましさを取り合っていたら切りがありませんよ。貴方、昨日もグラビア雑誌を持っていただけの愚かそうな男子学生を指導室に連れて行ったでしょう。限度がありませんよ」
知子が溜息交じりに玲子をたしなめる。所々男共を罵倒しているのは何だかんだ、鬱憤が溜まっているのだろうか
「でも!」
「でもではありませ…」
知子が玲子に反論しようとした所で、その僕と知子の眼が合う。続いて僕の顔をまじまじと見たかと思うと、額を押さえて溜息を吐く。
「玲子、貴方と言う人は、馬鹿だ阿呆だとは、心の奥底で思っていましたがここまで愚能だとは思いませんでした」
「え!?罵倒!?何でいきなり私、罵倒されてるの!?ていうか愚能って何?初めて聞いたんだけど!そんな言葉!」
すると、知子はブーツをカツカツと鳴らしながら、僕と坂本の間を通り抜ける。
ふわり、と歩行の際に生じた風に、舞い上がった黒髪の花のような香りが鼻孔に届けるられる。
嗚呼、何故女子はこんなにも良い香りなのか。
坂本の顔を見ると、哲学者のような荘厳な顔付きで眉をしかめながら鼻をひくつかせ、必死に何かを感じとろうとしている。最低である。
「玲子」
知子がその長身を屈め、玲子の頬に右手で触れ顔を寄せながら耳元に、何事か囁いている。
両者の軍服も相まって、宝塚の劇のようだ。
知子の男役めいた動作の怪しい魅力につい、どぎまぎしてしまう。
坂本は、”考える人”のような形相でその光景を凝視している。
「え!?まじで!」
玲子が素っ頓狂な声を突然あげる。
「言葉遣い」知子が玲子から顔を離し、たしなめる。
息を止める子供のように、口を止め頬を膨らます玲子。一旦息を吐き、再度発言をやり直す。
「本当に!?」
「本当です。顔を見れば分かるでしょう。あの時一緒に見たし、報告書でも確認したじゃないですか」
背の高い、知子の傍らから顔だけ出し、こちらの顔をまじまじと見る玲子。負けじとこちらもじろじろと相手の顔を見る。
すると、対抗意識からか、舌を出してこちらにあっかんべーをしてくる。
行動言動が常に子供のようだ。
顔を引込め知子に向き直る玲子。
「ごめん。わかんない」
「貴方は本当にお馬鹿ですね。貴方たち、もうここはいいです。食堂へ行ってください」
呆れた様子の知子が、振り返ってこちらに退席を呼びかける。助かったぜ。
「分かりました。失礼します!」
坂本の肩を叩き、行くぞ、と声を掛ける。
坂本は気持ちの悪い笑みを浮かべながら放心しきった様子で、ああ、と答え、歩き出す。
「ちょっと知子!私の獲物なんだけど!」
両手を振り下ろし抗議する玲子。
「反論は報告書の内容を憶えてからにしてください。二年生にもなってこれでは新人に示しがつきませんよ。指導室に行きますしょう。このことはお姉さまに報告させていただきます」
玲子の首根っこを親猫が子猫を咥えるように、無造作にしかし愛おしげに掴む知子。
玲子の顔は、青ざめひきつっている。
そのまま、何処かへと連れて行こうとする知子。
「止めて~!お願いだから忍さんには言わないで~!許してよ~!私達友達でしょ~」
ネズミのように敏捷な動きで柱にしがみつき、半泣きで抵抗する玲子。玩具屋で駄々をこねる子供みたいである。
大学生にもなってここまで、必死な様子を見せる人間は見たことが無い。
執行委員にも色々な人間がいるんだな。
「友人とは、友の欠点を馴れ合いの道具にする者ではなく、疎まられても将来の糧となる行動をしてくれる者のことを言うのです。良い機会です。弥子にもこのことを伝えておいて、あまり貴方を甘やかさないように言っておきましょう」
あの知子という執行委員は中々良いことを言うな。
既に学生の到来のピークが過ぎた入口を通り、坂本と共に食堂に入る。進んでいくごとに、後ろの二人の声が小さくなっていく。
「待って!足を掴まないで!いやー!止めてー!ひとさら…」
ごすっ!という鈍い音がしたかと思うと、急にかしましい声が止んだ。
冷静そうな彼女にも我慢の現界があったのだろう。
しかし、先程の知子の対応は何だったのだろう。僕には何か、見逃される事情があるのだろうか。入学式の時のように、知らない間に不穏な事に巻き込まれてそうで不安だ。
それに、あの二人の声を聞いていると、何かを思いだしそうになるのも謎だ。何か関連があるのだろうか。
二階にある、配膳室へ向かうべく階段に差し掛かったところで
「なあ」
ようやく、我を取り戻したと見える坂本が話しかけてくる。
「さっきの執行委員を見てたらさ」
デリカシーの無さそうなこの男にも思うところがあったのだろうか。
何事かを言おうとする坂本の横顔は、悟りを手に入れた聖者のように達観している。
「軍服もいいな、って思うようになったよ」
「………」
僕も決別を覚悟で、この男の煩悩を振り払う努力をすべきだろうか。
/********五分後**********************************/
案の定、学食は売り切れていたため、僕と坂本は、一階に戻り生協の店舗で惣菜パンを買って、食堂に持ち帰って食べていた。
僕がカレーあんパン。
坂本がスパイシーサラダフランスパン。
この学校では、企業との提携から、実験段階の試作商品が生協に供給されている。
ボリュームのわりに割安なため、貧乏な学生には一定の人気があるらしいのだが。
不味い。非常に不味い。破滅的だ。
僕が食べているカレーあんパン。
”あん”というのが具、中身のことだと思って買った僕の考えを裏切り、本当に”餡子”が練り込んである。
更に名前通り、カレーパンにおなじみの、幾分か水分を飛ばした、ドロドロとしたカレーも入っている。
この二つが、果たしてどんな悪魔的な相乗効果を生み出すのか。
まず、最初に感じるのは、カレーのスパイスの刺激的な香りだ。
鼻腔から届けられる、このありふれた料理の香りによって、脳は、次に味覚に届くのは塩味、ないしは辛味という判断を経験的に取り行う。
しかし、次に届くのは、餡子の甘味。
小豆と砂糖によって作り出された、我が祖国ジャパンが誇る、典型的な甘味だ。
これによって、予想と現実に剥離が生じ、食べている間、常にギャップを感じ続けることになる。
ねっとりとした、”あん”に口内の水分を取られ続け、ぱさぱさになった口で甘い味と真逆な要素を持つスパイシーな香りで馬鹿になった脳を刺激し続け、悪魔の三重奏を奏でる。
印象としては、地獄の果樹園といったところだろうか。喉がカラカラの罪人が、地獄の血の池を吸い取って、味にまったく関係のない匂いを放つようになった、カサカサの果物を口にすればこういう体験ができそうだ。
一応塩味が無いわけではないのだが、スイカにかける塩と同じ理屈で、この塩は甘味を引き立たせる以外の何の役割も持っていない
まったくどうしようもない商品である。これを作った企業の株を持っていたら、即座に僕は売るだろう。
三分の一まで食べた、この忌まわしき発明から品から視線を外し、白目を向きながらくるみ割り人形のように咀嚼して、フランスパンを口に送り続ける坂本を見る。あちらも不味いのだろう。
苦戦しているようだが、坂本なりに戦術を編み出して対抗しているようだ。
「そうだ、忘れてた」
スロットの目が回転するように黒目が戻ってくる坂本。と、同時にフランスパンを視界から離れた位置に置く。
意識がある間は、眼に入れたくないらしい。
「さっきアーカムについて教えてやるって言ったよな」
「言ってたな」
「教えて欲しいだろ?」
「いいや、全く」
「しょうがないな、教えてやろう」
得意げに鼻を鳴らしながら、またしても意味の無い問答を繰り替えす坂本。
このぱんを口に突っ込むんでやろうか。こいつ。
坂本は、目の前の悪質な食事から逃げ出すように、”アーカム”という言葉がこの学校で持つ意味について、そしてこの学校のローカルな情報についてぺらぺらと話し始めた。
パツキンヤンキーとドローン後編終了。
後編終わりです!次回は世界観(大学内のこと)説明!会話文ばかりで楽できそう!
今週は、ブラック・スキャンダル(ジョニー・デップ主演)とフェイス・オフ(ジョン・ウー)見ました。
ブラック・スキャンダルは珍しくジョニー・デップの犯罪者っぷりが良かったです。ああいう役を見たのは初めてですね。割と変人キャラを演じることが多いデップの明確な犯罪者っぷりが良かったです。
レクター博士やセブンの殺人者のような、目的も手段もサイコというより、手口が残忍なだけで目的自体は、俗っぽい感じ。こういうキャラ僕は好きです。
後、IRAって単語が出てきてちょっとびっくり。そういえばこの時代でした。
フェイス・オフも良かったですね。二人の人間が途中で入れ替わる場所があるのですが、演技が素晴らしい。顔つきから動作まで、本当に入れ替わったかのような見事な演技。しかも、入れ替わったのは善人と悪役というまるっきり正反対の役。見ものです。
後爆弾の画面UIの感じも良かったですね。昔の悪ふざけ好きなハッカーて感じで。
ジョン・ウーで有名な銃撃戦は、そんなにハマんなかったんですよね。先週もっと派手なジョンウィック見たばかりだからかもしれませんが。
後は入れ替わった二人がお互いを鏡越しに狙う演出は痺れましたね。本来なら自分が映るはずの、鏡に相手の姿が映るという矛盾。そこから、始まる戦いは鳥肌ものです。
入れ替わった二人の行動、がお互いの人生、身内に良くも悪くも影響を与えながら、絡み合いつつ結末へと収束していくストーリー展開も良かったです。
ジョンウーは、伊藤計劃とかヒラコーの本で名前は知っていたんですが、映画は見たことなかったんですよね。
後、シンプソンの映画も見たんですけど、特に書くことなし。興が乗ったら来週書く。いや面白いんですけど、何十回も見てるから……今更書くことも……。
というわけで次回は来週。