episode05【バトル!バトレバ!バトルトキ!②】
※ロエルvsゴブリンメイジ編
✳︎ ✳︎ ✳︎
「馬鹿な奴メ……わざわざ仲間を見捨てて俺様の所に来るとはナ」
ロエルと対峙するゴブリンメイジは、傷ついた右腕を左手で押さえながら、ニタニタと薄気味悪い笑みを浮かべた。
「俺様の部下が単なるゴブリンだと思っているのカ? あいつらはこれまで数々の冒険者を葬ってきた歴戦の戦士達ダ。あんな剣もまともに扱えない奴が勝てる相手ではナイ……それに──
「随分とお喋りになりますね」
ゴブリンメイジの言葉を遮るようにロエルが口を開く。
「もともとお話が好きな性格なのですか? それとも……先ほどからコソコソと右腕にかけている“治癒魔法”の時間稼ぎでしょうか?」
「──ッ?!」
「まぁ、もしそうだとしても私としては特に何の問題も無いのですが。どうやらあなたはすぐに何かを隠したり騙したりするのが好きな性格の様ですねぇ」
ロエルは嘲るような口調でそう言うと、みるみるうちにゴブリンメイジの顔色が変わっていった。
「クァァァ……調子に乗るなよ人間風情が。少し氷魔法が使えたくらいでいい気になりやがっテェ!」
ゴブリンメイジはロエルを威嚇するように大きく口を開くと、懐から黒い液体の入った小瓶を取り出し、勢いよく飲み干した。
「この匂い……“マジック・ポーション”ですか」
「ククッ……さすがは魔法使いだナ。ならばその効果も知っていよウ」
「ええ、もちろん♪ 飲んだ者の魔力を一時的に底上げする道具ですよね」
ロエルは人差し指をぴんと立てると、白い歯を見せて笑った。
「余裕を見せるのも今の内ダ。今度は先ほどの様にはいかんゾ、貴様の骨ごと炭クズにしてやるッ!!」
そう言ってゴブリンメイジは手に持った杖で詠唱を始めた。
「それでは、最後に三つだけあなたの間違いを教えて差し上げましょう」
ロエルから唐突にそう切り出された言葉に、ゴブリンメイジは訝しむように眉間に皺を寄せた。
「一つ、私の弟子はあの程度の雑魚に負けることはありません」
視界の端で、一刀両断されたゴブリンを横目に見つつロエルはゆっくりと右手を上に掲げた。
「二つ、私は魔法使いではありません」
ロエルから発せられる強い魔力の流れにより、周囲の空気が揺らぎ始める。
「三つ……襲った相手が悪過ぎましたね♪」
そう言ってロエルな微笑んだ次の瞬間、強烈な魔力の渦が放たれ、周囲にいたウィルやゴブリン達を巻き込む様に暴風が吹き荒れた。
「バッ……バカナ!! 杖なしで炎上位魔法だトッッ?!」
驚愕するゴブリンメイジの眼前には、巨大な火球が高熱の渦を巻きながら、尚も大きく膨らみ続ける。
「ですが、あなたのおかけで弟子はまた一つ強くなれた様ですので、それだけはお礼を言わせて貰います。では……」
「──ボワフレアッ!」
「グッ、グワァァァアアーッ……!」
ロエルの掲げた右手の上で生成された巨大な火球は、ゴブリンメイジ目掛けて急降下し、その激しい衝撃と共にゴブリンメイジの身体は跡形も無く焼き尽くされた。
「……ふぅ。それにしてもこんな辺境の地のゴブリンでありながら、あれだけの知性を持っているとは。私の悪い予感が当たらなければ良いですが」
小さくため息を吐いたロエルは、未だ真っ赤に燃え続ける地面を見ながら、誰に言うとも無くそう呟いた。