episode03【人生皆訓練】
まさかの一日三回投稿。
「ロエルっ?!」
俺は尻もちをついたまま、思わず上擦った声をあげた。
「貴様ァァ、何故生きている!!」
ゴブリンメイジも動揺を隠しきれない様子で、傷を負った右腕を押さえながら怒りの目を向けた。
「いやぁ、本当は黙って見ていようかと思っていたのですが、あまりにもウチの弟子が未熟なものでつい……」
「だったら最初から助けろよ!!」
「何を言ってるのですか、ウィル。初めから助けたら“特訓”にならないでしょう?」
「と、特訓……?」
ロエルの言葉に呆気にとられていると、その隙をついたゴブリンメイジは床に落ちた杖を左手で掴み上げ、呪文を詠唱した。
「死ねェェィ、ボワラァァァ!!」
「遅い。──シャゴル!」
ゴブリンメイジの火球と、ロエルの手から放たれた巨大な氷柱は空中で激しく衝突し、大きな衝撃音と共にそのまま霧散した。
「ハァ……ハァ……わかったぞ。貴様、魔法使いだな。先程殺したと思っていたのも、貴様が見せた幻影という訳か……ゲハハ、小癪なァァァ」
ゴブリンメイジはそう言うと懐から小さな笛を取り出し、思い切り吹いた。
すると廃屋の扉や窓などが勢いよく破られ、メイスや短剣を構えた数体のゴブリンが中へ転がり込む様に飛び込んできた。
「ふむ。どうやら、もう少し特訓は続けられそうですね。ウィル、これを使いなさい」
ロエルは腰に下げていた長剣を抜くと、俺の足下に放った。
「んな事いきなり言われたって、俺こんなの使った事ねーぞ!」
「なぁに、相手の太刀筋さえよく見ていれば大丈夫ですよ。後は──
「行けェェェ!!」
ロエルの言葉を制する様に、ゴブリンメイジが号令をかけるとゴブリン達が一斉に俺とロエルに向かって駆け出した。
「ちょ、待っ──!」
俺は咄嗟に長剣を拾い上げ、向かってくるゴブリンを牽制するように大きく横なぎに剣を振るった。
ゴブリン達は一瞬怯んだ様子で、一定の距離で立ち止まると、そこからジリジリと間合いを図りながら好機を窺っていた。
ここでひとつ大きく息を吐いて、冷静に状況を分析する。
ゴブリンは全部で4体──
メイス持ち2体、短剣持ち1体、片手斧持ち1体か。
俺の所には短剣と片手斧持ちが、ロエルにはメイス持ち2体がそれぞれ向かい合っている状態だ。
村でゴブリンを追い払った経験を思い出せば、2体は何とか倒せるか……?
俺がそんな事を考えていると──
「ウィル、私はあの親玉に少しお仕置きをしておきますから、他のゴブリン達は“全て”あなたにお任せしますよ」
──あ? この男今なんて言った??
「“標的変更呪文”♪」
そう言ってロエルが指を鳴らすと、メイスを持ったゴブリン2体ももれなく俺に向かい合う様に立ち位置を変えた。
「おぃぃぃ! ロエルテメェェェ!!!」
俺は長剣を握りしめたまま、ロエルに向かってありったけの力で吠えた。
「大丈夫、大丈夫。ちゃんと危なくなったら助けてあげますから」
ロエルはニッコリ微笑むと、ゴブリンメイジに向き直った。
「さてと、それでは第二ラウンドといきましょうか」
「あぁ、クソっ! もうどうにでもなれ!」
俺は覚悟を決めると、4体のゴブリンに向かって剣を構えた。