episode13【魔の森狂想曲①】
俺とロエル、そしてラキを乗せた馬車は魔の森へと順調に向かっていた。
先程まで拓けていた街道から一本脇道へ入ると、景色はうっそうとした林道へと変わり、辺りには夕闇が立ち込めている。
「まだ着かないのかよ?」
「そうですね。そろそろ街道を抜けてから1時間ですから、もう着く頃ですよ」
ガタゴトと不規則に揺れる馬車の中で、俺とロエルが他愛もない会話をする間も、ラキは一言も口を開くこと無く、膝を抱えたままじっと座っていた。
「なぁ、ラキ」
「な、何?」
俺の言葉にびくりと肩を震わせてラキは顔を上げた。
「なんだよ、そんなに驚くことはねーだろ?」
「ごめんなさい。少し考えごとをしてたから」
「……母親のことか?」
「う、うん。それもあるけど、やっぱり兄ちゃん達に迷惑だったかなって思ってきちゃって……」
「今更何言ってんだよ。そりゃ俺たちだって別な目的でここに来ることにはなったけど、ラキみたく困ってる奴だってほっとけないからな」
「おやおや、私が許可しなければ、ウィルはラキの申し出を断っていたんじゃないですか?」
胸を張ってドヤ顔で答える俺を見て、ロエルは冷やかすように笑った。
「んなっ! ……じゃあ言わせてもらうけどな、レベル4の奴がそんなお願いされたって、自分の身だって危ねえのに、そんな余裕あるかよ!」
「れ、レベル4!?」
ラキは目を見開いて俺の顔を見た。
「なんだよ……悪いか?」
「だって、これから行く先は“魔の森”なんでしょ? 確か魔の森の探索レベルは30以上は必要だって聞いたよ?!」
「わかってるよ。そもそも俺だってこんなところ来たくて来たわけじゃねーからな。全部の原因はこのバカ師匠だよ!」
「おーい! ボウズども!」
馬の手綱を引く男がこちらを向いて声を上げると、突然馬車が停まった。
「うぉっと、どうしたんだよ?」
慌てて幌から顔を出すと、男はアゴをしゃくって前方をさした。
「悪いが、俺が案内できんのはここまでだ」
「え? だってまだ到着してな──」
そこまで口に出して俺の言葉は止まった。
視界を前方に向けると、数十メートル先にある木々の間から、大きな棍棒を持った半裸の巨躯が次々と姿を現したのだった。
「ふむ、“トロルロード”の群れですか。ウィル、先に言っておきますが、ここから余計な無駄口を叩いていると死にますよ?」
そう言ってロエルは嬉しそうに笑った。




