episode10【ばうんてぃはんたぁ】
「あ? 何だよ、お前」
唐突に間に割り込んで来たロエルに、テッド兄弟と呼ばれる鎧の男がジロリと一瞥した。
「これは失礼。受注用紙を一枚取らせてもらいたかったものですから」
ロエルは穏やかな表情のまま依頼板に近づくと、束ねて貼られた受注用紙の中から、アークトロル討伐の受注用紙を一枚取った。
「なんだぁ、お前。アークトロル討伐の依頼を受けるつもりなのか? ハッ! こいつはとんだ命知らずだなぁ」
背の低いバンダナ男が冷やかすような口調で絡んできたが、ロエルは顔色ひとつ変えずに受注用紙をそっと懐にしまった。
「ロエル、早く行こうぜ」
俺は急かすようにロエルの腕を引っ張り、その場を離れようとしたが、突然反対側からもの凄い力で引っ張り返された。
「あらぁ〜? あなた達もアークトロル討伐を受けるのですか? 良かったぁ。実は私も一人で行くのは心細くて、誰か頼りになる素敵なお方は居ないかと探していたんですのよ〜」
振り返るとメサイアとかいう魔法使いの女が、先ほどとはうって変わった猫なで声で、ロエルにしなだれ掛かる様にしがみ付いていた。
「おいメサイア! さっきと言ってる事が違うじゃねぇか!!」
「えぇ〜? 何のことかしらぁ〜?」
鎧の男が大声でがなり立てるが、メサイアは指を口元に当ててわざとらしく宙を見た。
「せっかくのお誘いですが、私は他の方と協力するつもりはありませんよ。何せ賞金全額が必要ですから」
ロエルはゆっくりとメサイアの腕を離すと、笑顔でそう答えた。
「そう、それは残念ねぇ。それじゃあ、そっちの坊やにお願いしてみようかしら?」
そう言ってメサイアが俺の方を見てウインクをした瞬間、俺の視界がグニャリと歪んだ。
全身が溶けていくような妙な感覚と、フワフワと身体が浮かんでいくような陶酔感に襲われる。
「……は、はぁい。メサイアさぁん」
呆けた様な顔でふらふらとメサイアに近づこうとする俺の肩をロエルが掴んだ。
「──リザキュア」
ロエルが小さくそう呟くと、まるで頭の霧が晴れた様に、俺は正常な意識を取り戻していった。
「……あれっ、俺今、どうなって……?」
「ふむ。勝手に人の弟子にちょっかいを出すとは、あまり感心しませんねぇ」
ロエルは目を細めてメサイアを一瞥した。
「あら? 私の【魅了】スキルが解除されたなんて。あなた、見かけも魔力も素敵だなんて……ますます気に入ったわぁ」
「それはどうも。さて、これで要件は済みました。行きますよウィル」
「お、おいロエルっ」
メサイアの視線を一蹴してつかつかと足早に歩くロエルの背中を追って、俺は再び人混みの中へと入っていった。




