prologue01【拝啓、僕は走ってます】
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──俺は今、人生でこれ以上ないくらい死に物狂いで走っている。
背後から地響きの様な足音を立てながら迫るホーンバッファローの群れは、ジワジワとだが確実に俺との距離を詰めており、もはや追いつかれるのは時間の問題だった。
荒々しい鼻息、風を切る鋭い角、そのどれもが俺を恐怖へと駆り立てるには十分すぎる材料だ。
「ほらほらー、もっと早く走らないと轢き潰されちゃいますよー」
「だ……だったらこれ、なんとかしろよぉぉ!!」
俺は遠くの方から他人事のように見守る男に向かって息も絶え絶え叫んだ。
「うーん、そろそろ限界でしょうか?」
しばらく様子を眺めていたロエルからふと、そんな声が聞こえたかと思った次の瞬間。ロエルは音も無く、俺とホーンバッファローとの間に一瞬にして移動していた。
「──“混乱呪文”♪」
そう言って指をパチンと鳴らすと、ホーンバッファローの大群はピタリと止まり、何事かと言う様に辺りをキョロキョロと見回し始めた。
「ブモォォォー!!!」
そして、先頭のホーンバッファローが前脚を蹴り上げて嘶くと、大群は散り散りに走り出しどこかへと行ってしまった。
「ハァッ……ハァッ……終わった……ぁ」
そう言い残し、俺は荒野の真ん中で大の字になって倒れ込んだ。
酸欠で朦朧とする意識の中、どうしてこんな事になってしまったのかと自分の運命を呪った。
全ての原因は三日前に遡る──
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