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タクティカル☆魔法少女  作者: イズミ イクサ
魔法少女 推☆参
8/9

魔法少女 推☆参 ひとつめ


  /1


 白居志保との戦いから夜が明けて、私は半日近く歩き続けた。

 現在地点は浅草、天下のアサクサである。


 私は残りの少ない、なけなしの日本円を叩いて銭湯にいる。

 番台のおばあちゃんが「おや、こんな時間から小学生が……」とか、余計な疑問を抱いたのでマジカル交渉術で眠ってもらった。

 お金は払ったから問題は無い。


 という訳で、私は昨日の働きを癒す為、湯につかるのだ!

 ちなみにHCARはロッカーの上のほうに置いた。


「うふふふふ」


 カーテンを閉めて、シャワーを捻る。

 心なしかネットカフェよりも広く思えてしまうのは何故だろう。


 こころのよゆうにちがいない!


 しょうりの余裕なのだ!


「わはははは」


 びしゃびしゃびしゃ。

 私は汗という汗を洗い流して、鏡の前に腰を降ろした。


 番台で買った小さなシャンプーを泡立てて、頭を洗う。

 これが毎日続いたら幸せに違いない。


 ――――ん、ふと隣にヒトが座った。


「あら、いやですわ……石鹸が飛び散っておりますわ」


「あ、ごめんなさいっ……」


 隣に座ったのは、ちょうど私ぐらいの女の子で、私よりも肉付きがいい。

 ……というか、そういう事じゃなくて、私の石鹸が飛び散っていたらしい。


「あら、よくってよ」


 隣の女の子は、見るからに豪華な桃色のシャンプーを取り出して頭を流していた。

 いいなあ、お金持ちなんだろうなあ。


 でも、なんでお金持ちが銭湯なんかにいるんだろう?


「あら、あんまり見ないで下さります?」

「あ、ごめんなさい」


 知らぬ間に凝視していたらしい。

 私は慌てて髪を流し終わると、身体を洗った。


「あーっ! だからやめてくださいまし、飛び散ってますの!」


       ◆


 私が湯船につかると件の女の子も入ってきた。

 因縁でもつけられた気がする。


 お湯は黒の天然ラジウム風呂、温度は集めで疲れた体を一気に癒してくれる。

 クロノが黒のお風呂に浸かるのだ。


「ぷぷぷぷぷ」


「嫌ですわ、なんですか、一人で笑っておりますの」


 いや、お前は関係ないだろう。

 私が笑いたいから笑ってるのだ、喧嘩なら負けないぞ。


 ていうか、そろそろ上がろう、


「嫌ですわ、もう上がるんですの。――――お里が知れますわ」


 あー、きちゃった。

 かちんときちゃった。


 まけてらんないね、これは。


 私は四十三度のお湯に戻った。


 一分。


「まだですの」


 二分。


「まだだよ……!」


 三分


「まだまだですの!!」


 四分。


「ま、まだ……です、の」

「ま、まける、ものか……!」


 ――――あ。



       ◆



「今回のところは引き分けということにして差し上げますの」

「ていうか誰?」


 名も無き女の子は、そんな風に胸を張りながら瓶のミックスジュースを一気に飲み干した。


 私はコーヒー牛乳だ。


「コーヒー牛乳なんて粗末な感性ですわ」

「だから誰なの?」


「全く、私を知らないなんて……え?」

「だから誰なの?」


 女の子は目をぱちくりとさせて固まっていた。


「と、とととととんだ田舎者でございますわ。私を知らないなんて」

「しらないよ、いい加減にしてよ」


「わ、私は……三条御雪さんじょうみゆきですわ!」

「ああ、そう三条御雪さん……はじめてきいた」


 なんだんだろう、この子は。

 私がぼうっとしていると、三条深雪はロッカーを開けて着替え始めた。


 うわ、着物だ。

 どうやらお嬢様と言うのは間違いないみたいで、桃色の着物を自分で着つけている。


 最後に朱色の羽織を纏って、完成……らしい。


「すごいねー」


 そう言いながら私は替えをミリタリーパンツを穿いた。

 昨日まで来ていた一着はバックパックに収めてある。出たらとなりのコインランドリーで洗濯しよう。


「ですわー」


 そう自慢げに鼻を鳴らして、少女は〝それ〟を手に取り、腰の紐に差した。


「な――――」


 二十六年式、拳銃。


「あらためまして、おはこんばんわ、ふぁっきん、ごきげんよう」

「アンタ……一体、何者」


「あら、砂臭いガンマニアは物覚えも悪いのかしら?」

「私に何のよう?」


 くすり、と三条御雪は笑って、手を掲げる。

 黒いヴァイオリンケースを――――掴んだ。


「あ、返せ!」

「嫌ですわー!」


 逃げやがった!


 私はジャケットを羽織ると、サイドアームのコルトガバメントを手に取った。

 とりあえず洗濯は後回しだ。


 HCARが場われた以上、その回収が先である。


「待てやー!」


 敵襲だった。



       ◆



 銭湯を抜け出せば目の前には大通りが広がっている。

 車の往来は激しく、渡れる気配は無い。


 だが、三条御雪は既に向い側に渡っていた。

 どうやら度胸と勇気はあるらしい。


 私は彼女と並走するように走り出した。

 アイツは今、HCARを背負いながら走っている。


 あのヴァイオリンケースの中は七キロはある。

 本体と、そしてマガジンにチェストリグ。


 それに私はアレを運搬する為の筋力強化を常用している。

 走りなら負けない、絶対に追いつける自信があった。


 十字路に入り、三条は右手に曲った。

 ちなみに私は赤信号、流石に車を抜けては走れない。


「くっそー、この……」


 オリンピック選手のようにスタートのポーズを取って、呼吸を整える。


 三、二、一……。


 青!


 私は信号が変わると同時に私は走り出した。

 風を切り、人を潜り抜け、三条雪乃の背中を追う。


「待てぇえええええええっ……!」


 追いついた。


「ヒッ! 化物ですの!」


 見れば三条御雪は息が上がっている。

 当然だ、そんな物を持ちながら走れる中学生が存在する訳が無い。


「さあ、返せ!」

「嫌ですのー、あっかんべえ、この野蛮人!」

「泥棒に言われる筋合いはない!」


 掴もうと手を伸ばしたら、ひょい、と避けた。


「そうは問屋が卸しませんのよ」

「っこのぉ……!」


 三条御雪は小道に入った。

 ……っと、転びそうになりながらも私は御雪を離さない。


「なーっ! いきどまりですわ!」

「行き止まりだァ……覚悟しろ!」


 目の前にはコンクリートの塀が彼女を遮っている。

 私はガバメントを構えると、殺意を込めて睨みつけた。


「動くな、殺す!」

「野蛮人! 覚悟なんかしませんの!」


 三条御雪は塀を登り始めた。


「ふんっ、ぬ! ぬう!」


 めっちゃ頑張ってるけど、大丈夫かな。

 七キロ以上あるよ。


「ンッ!」


 塀の向こう側に転がり落ちた。

 ドシン、グシャと――――危ない音がする。


 私は強化魔術に任せて軽々と飛び越えると、真下に転がっている御雪の上へ圧し掛かった。


「いい加減、返せ」

「お断りしますわ……人の縄張りを犯しまして!」

「知らない。私は魔術師を殺すだけ、アンタも死ぬ?」


 ガバメントの銃口を頬に押し付けて、ぐりぐりしてやる。


「アラー! 野蛮ですわ、これだから魔術師は嫌いですの!」

「アンタは違うっていうの?」


 魔術師じゃないなら、殺す必要は――――無い。


「陰陽師! ですわ!」


 そう言うと、彼女は私の顎を蹴り上げた。


「……ッ、同じじゃない!」

「違いますの! 安倍晴明様から陰陽師を教わった三条の人間として、大和三術を継承する義務がありますのん!」

「大和三術なら私だって使ってるっての!」


 彼女は私の腕を振り払うと、間合いを取った。

 ……ったく、折角お風呂に入ったのに……!


「とにかく、この土地での乱暴は、この三条御雪が許しませんの」


 御雪は二十六年式拳銃を構えると、私に向けた。


「知らない。アンタの許可なんか興味ないし、命も興味ない」


 私はコルトガバメントでアイツの額を捉えている。

 外す事は無い。


「まったく、愚か者ですわ」


 彼女は躊躇いも無く引き金を引いた。

 同時だ、私も引いていた。四十五口径の衝撃が響いて――――。


 二つの弾が外れた。


 私の首筋の掠めた九ミリ弾、だが四五口径は住宅の外壁に当たっている。


「そんな、うそ」


 三条御雪が消えていた。



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