魔法少女 爆☆誕 ひとまず
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さて、と。
濡れてしまった身体を引き摺りながら、私は人気のない電気街を歩いていた。
依頼主が犯人で報酬はゼロ、パソコンも買ってしまったし、経済的には赤字となってしまう。
思いもよらない出費に、私の財布は空っぽ同然だった。
辛うじて使えるスマートフォンも、よく考えれば日本のキャリアに合わせた契約をしていなかった。
手短に契約を結ばなければ、お金が飛んでしまう。
しかし、次の依頼はいつ入ってくるのやら。
私は明日の自分さえ分からない。もしかしたら野たれ死んでしまうかもしれない。
「まあ、これに懲りたら出どころ不明の依頼なんか受けねぇコトだな」
HCARのほうといえば余裕といったところ。
当然、お前のメシは私の魔力だ。私の血だ肉だ、栄養素を吸い取って生きている。
お陰で私はどれだけ食べても太らないんだけど、どれだけ食べても満たされないのが実情だ。
まあ、元々魔法使いなんて性質じゃない、ふつーの日本人だから、仕方ないんだけどね。
「ふん、そんな依頼しか入って来ないの、私は」
「そうかい、なら頑張りな」
まるで他人事のような素振り。
気が付けば私は息を詰まらせて、頬を膨らませてしまった。
これじゃなんだか子供みたいじゃないか。
「子どもだろ、お前はさ」
「ふん……」
そんな事を言うなら、どこか行ってしまえばいいのに。
でもHCARは私の傍にいる。
「ねえ、あれ……ほんとう?」
ふとHCARの言葉を思い出した。
「あれって、ああ……あれ?」
「女の子が長物を持つな、ってさ」
「ああ、だってそうだろ? お前が今こうして俺を扱うっていうのは、そういう事だ」
「ええ? だって先代だって女の人だったじゃん……」
と、息を呑んでしまう。
「そっか、師匠……死んじゃったもんね」
師匠、私にHCARを託した陰陽師である。
煙草を吸いながら、指貫グローブに漆黒の外套。
何処からともなく取り出したBARを使い、目に付く全てを木っ端みじんにしてしまうタクティカルな魔女。
それが師匠だ。
師匠は私を守って死んでしまった。魔術師の弾丸に敗れたのだ。
私の家族は、これで全て魔術師に殺されている事になる。
だから私は戦っている、魔術師としてPMCとして。
でも師匠が魔女なら、私はなんだろう。
遠く及ばない未熟者だ。今もこうして明日の飯にさえ在りつけない。
夜明け前の秋葉原、ゆっくりと日差しが昇っていく。
平和で温和な日常、世界一平和な国、日本。
その少ない闇を祓うように、東の空が時間をかけて茜に染まっていく。
一つのポスターが照らしあげられた。
アニメのポスターだ。ピンクのドレスを纏い、ステッキを振るう小さな女の子。
「ああ、そうか……」
たしかそう、魔界から来た魔物を浄化させるために、彼女は戦うのだ。
命を懸けて、誰からも理解されない飽くなき戦いへと身を投じる少女たち。
延々と恨みもしない相手と戦うことは、どれだけの苦しみを伴うのだろう?
彼女たちは、どんな気持ちで魔物と向き合うのだろう。
夢と希望を守る少女たち。
そんな彼女たちを人々は魔法少女と呼ぶらしい。
「そうか、私は――――」
どうした事だろう、偶然かもしれない。
ステッキなら私も持っていた。
それに魔法ならお手の物だ、キラキラしてないけど。
でも、まあ同じようなものだろう。
だから私は――――。
「魔法少女、タクティカル魔法少女クロノ」
ケタケタとチャンバーが鳴っている。
HCARが本当に笑った。
ひとまず。