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プロローグ
東京、JR神田駅。
最終列車が過ぎ去るのを、一人の少女が眺めていた。
黒のキャップを目深に被る彼女は、大きめのヴァイオリンケースを背負いながら、月を見上げている。
過ぎていく時間を惜しむように。
あるいは東京の景色を、懐かしむように。
「久しぶりだな」
暫らくは大陸を転々としていたのだ、忘れていたと少女は思う。
長らく思い出す事は無かったが、身体のほうといえば覚えていたらしい。
深夜の喧騒、民衆の雑踏。
鋼の都、それは兵共が夢の跡。
――――決して、知る事の無い奇跡の名残。
それを彼女は覚えていた。
―――― Tactical Charmer ――――