第一話「プロローグ」
遥か昔。
いや、五年くらい前です。すみません。
全然昔じゃないです。
当時、小学生から中学生に上がる頃くらいの私。
そしてその友人間で流行っていたVRゲーム――「タクティクス・トルーパーズ」。
ファンからは「TT」シリーズの略称で親しまれている。
男の子たちの間に混じって、みんなでやり込んだ思い出のゲーム。
その頃のVRにしては珍しい、暗く、重たいストーリーテリングが人気を博し、今もなお似たようなシステムのゲームが作られていて、私はその続編を今か今かと楽しみに待っている。
そう、そのゲームのシステムが画期的だったんだ。
それは、半自動体感没入型であるということ。
どういうことか。
技能を実行した際に、体が自由に動かせるのだ。
それのどこが画期的だって? そう、みんなも知っての通り、それ自体は今のVRにおいて言えば最早当たり前と言ってもいいシステムだ。
人間が、人間的な動作を凌駕するために、半自動化されたモーションプログラム。
違うのは――自身の意志の範囲で、技能を自分仕様化できるということ。
つまり、体を半分捻ってから、技能の行使に移行したり、思い切り飛んでポーズをキメてから大技を繰り出したり、あるいは自分の自然な動作から(走るとか、スライディングとか)即座に技能へ直結したりとか。
言うなれば、そう、自由度が高かった。当時にしては、とても。
もちろん、技能自体はゲーム内に設定された限りのものしか存在しない。それは仕方ない。けれど、それでもなお、自分が好きなように動いてから必殺技が撃てるというのは、私達のような当時の中二病世代には直撃だった。ストライクだった。ホームランだった。
誰だってやりたいでしょ? 口上を言った後に必殺技を撃つとか、行動支援機能を最大限に利用して、超人的アクションからの技能連撃、トドメの奥義! とか。
それは、きっと今から20年も前の人間だってやりたかったことのはずだ。
液晶の向こう側の、あんなヒーローやこんなヒロインが繰り出す、超絶カッコイイ技を真似して、物理法則や空気抵抗、その他ありとあらゆる現実に引っ張られながらもキメポーズ。
ああ、でもこれは、小学生の憧れなのかもしんない。
けど、やりたいよ。ヒーローなんかよりずっとカッコイイんだもの。
次元の向こう側のキャラクターってさ。
だから、TTはそんな幻想を現実に限りなく近づけた、その第一歩のゲームだったんだ。
伝説のゲームであり、私がここにいる原因でもある、そんなゲーム。
でも、私は、それよりも更に向こう側のものに憧れを抱いていたんだ。
てきのわざ。
みんなは知ってるだろうか?
敵にしか使えない技ってやつ。
それは多種多様で、味方と同じくらいにたーくさん種類があって、なのに、私達には決して使うことのできない禁忌の技。
例えば、黒魔法。
なんとかファンタジーとかでは有名だよね。
ファイアにサンダー、ブリザトとか、ありがちな初級魔法。それくらいは敵も味方も使える。当然だね。普通の魔法だもの。
けれど、ある時を境に、急にあいつらはワンランク高い上に、禁術を撃ってくる。
ダークフレアとか、ダテレポとか、完全究極アルテマとか。
なんかすごいかっこいい横文字なんかで撃ってくる、こっちには使えないもの。
おかしいでしょ。おかしいよ。
悔しいと思わなかった?
ずるいと思わなかった?
私は思ったよ。
ずるいって。
卑怯だって。
私にも使わせろって。
あんたらばっかり優遇してもらっておかしいって。
こっちはこっちの技だけで満足させられてんのに、そっちはそっちしか使えないものがあるってわけ? なんでそんな特別なものを用意してもらってるわけ?
相手にしか使えない技を見て、そりゃもうホントに私の目はキラキラ輝いたのに。
どうすれば使えるんだろうって。どうすれば覚えられるんだろうって。
夢にまで見ちゃったよ。あの技が使えるようになりました! 隠しダンジョンをクリアすれば使用可能です! って。
てっきり私はそれがあるもんだと思って攻略進めちゃったよ。
それからしばらくして、攻略し尽くして、結局さ、最後まで使えなくて。
もう私は怒り心頭だった。
それを使うやつらは仲間にすらできないんだよ? チートだって揶揄したことさえあった。
だっておかしいじゃない。システム的には存在してるのに。確率はゼロに近いが盗める? 違うの。ゼロなの。私には使えない。味方には使えないズル。
どうして使えないのよって。幻の世界に行って、敵さんをぶん殴ってやろうかと何度も思った。HМDを投げ出して殴り壊したい気持ちにすらなった。いや、高いから壊さなかったけど。
――しかも、それはあのTTでさえ一緒だった。
敵にしか使えない技の数々を、華麗に使ってくるHNМ。
暗黒魔法、禁断魔法、古代魔法、獣剣技、破剣撃、聖光技、邪念、邪思、眼光、挙げたらキリがない。エトセトラエトセトラ……。
だから、私はなっちゃいました。
敵の技だろうが、味方の技だろうが、何だって使いたい放題のあの職業。
面倒な作業は腐るほどあるけど、代わりにどんなチートだって公に使いたい放題。
いや、さすがにネット環境下では使うと怒られちゃうけど。
でも、それでもいいんです。
私は、こうして私は「てきのわざ」を使えるようになった。
そう――ずっとずっと憧れていた、その職業に。
「タクティクス・トルーパーズ」のGМ&デバッガーに!