リトさんならラッキースケベが発生していた
「じゃ、早速部屋に案内しようか。はい、鍵」
「どうも」
『204』とナンバープレートの付いた鍵を手渡される。
オートロックじゃないのか、と思ってしまった丘夏は良くも悪くもゆとり世代だ。
「その鍵、キーホルダーか何かを付けていた方がいいよ」
「どうしてです?」
「そうすれば落とした時に音がするからね。小さいから無くしちゃう人も少なくないんだよ」
「ああ、なるほど。ちなみに無くした時は?」
「五千円の弁償金を支払ってもらったのち、二度とこんな事を起こさないよう一ヶ月間、ゴミ捨て当番をやらせる事になってるよ」
「き、厳しいんですね……」
「まぁ、鍵を発注するのって面倒だしね」
随分と私的な理由が含まれてそうだった。特にゴミ捨て当番の辺りとか。
……それよりゴミ捨て当番なんてものがあるのか。
気になるので、後で聞いておこう。
「それで、君の部屋なんだけど──」
穂花が何かを言いかけ、
直後、心臓が跳ね上がる程の大きな音によってその声はかき消された。
音はアパートの階段から聞こえた。
すぐに何故か額に手を当てている穂花に説明を求める。
「……何が起こったんですか?」
「えっと、いつものだね」
「いつものって……」
どうやら答えにくい事のようで、穂花は困ったように苦笑している。
あんな大きな音が日常的に出るという事なのだろうか?
そもそも何が起こってあんな音が?
「あれ、見なよ」
穂花が指差したのはアパートの二階へと続く階段。その、階段の手前辺り。
そこに僕と同じくらいの背丈の女の子が倒れていた。しかもスカートが捲れ上がってパンツが丸見えの状態で。……ライトグリーンか。状況から察するにさっきのはあの子が階段から転げ落ちた音だったというわけだ。
……いや、死ぬんじゃないだろうか?
「大家さん、あの子大丈夫なんですか……?」
アパートの階段は結構な段数がある。
あそこから転げ落ちれば只では済まないはずだ。
「うん、大丈夫だよ。しばらくしたら起き上がるし」
「そ、そうなんですか?」
「実を言うとね、あの子はこのアパートの住民なんだけど、壊滅的なドジでね。ああしてあの子が階段から転げ落ちるのは毎日の恒例なんだ」
「ドジの言葉の意味を履き違えてません? そういうレベルを越えてますよ」
その話が本当なら、即刻あの子は誰かに介護を要求するべきだろう。
「ま、それをアパートの皆が酒の肴代わりに楽しく見物するのも毎日の恒例になってるんだけどね。どんなダイナミックな落ち方をしてくれるのかで」
「アンタ等は外道か」
このアパートにはロクな住民がいないのだろうか。