この後、滅茶苦茶格ゲーした。
乙女はよく204号室(丘夏の部屋)に遊びに来る。
同級生かつ部屋が一番近いからという事もあって、遊びに来る事に遠慮はないようだ。
「丘夏。遊びに来た」
「そこは課題を教えてもらいに来たって嘘でも言って欲しかったよ。というか平気?」
玄関前で突っ伏すように倒れる乙女が手に持つのは課題のプリントではなく、ポテトチップス(コンソメ味)。
また今日も格ゲーをやろうと誘いに来たんだろう。
倒れているのは玄関の段差に足を引っ掛けたからに違いない。
「……大丈夫」と乙女は勢いよく立ち上がり、そのまま丘夏の部屋までずかずかと上がり込んでくる。
「ゲーム、しよ」
「課題は?」
「課題は今日、私のクラスは出なかった」
「どうして一秒でバレる嘘をつくかな」
丘夏と乙女は同じクラスだから、乙女にも古典の課題が出ている事は分かっているというのに。
「丘夏は?」
「とっくに終わったよ。今は復習中」
自分で言うのも何なのだが、丘夏は意外と勤勉だ。
今はもう復習も大体済ませてしまっていた。
「ならゲームを……」
「この流れで言う?」
乙女の課題の話はどこに行ってしまったのやら。
「……まぁ、いいけどね。その代わり終わったら課題をやるんだよ?」
「ん。分かった」
乙女は嬉々として丘夏の押入れにあるゲーム機を取り出し、準備にかかる。
……もう少し乙女は精神的に成長出来ないのだろうか。これではまるで小学生だ。
こういう時こそ誰かが厳しく言ってやらなければならないのだが、こうして付き合ってしまう辺り、丘夏も乙女に甘いのかもしれない。
乙女からコントローラーを受け取り、丘夏はテレビの前に座る。
テレビには既にゲームのタイトル画面が映っている。乙女が好きな格ゲーだ。
腕まくりをして、気合いを十分に高める乙女に対して丘夏も首をコキコキと回し、戦闘準備を整える。
そして、いつものように丘夏は乙女の遊び相手としてゲームを始める──。
「くそっ! 下投げハメ技は卑きょ……っ! ちょ、ちょっと、やめてっ! やめてよっ⁉︎」
「……やめない。これが有効打だから」
K.O!
「そのコンボは反則でしょ⁉︎ 僕、見てるだけで負けちゃったんだけど⁉︎」
「失敗したら即死コンボじゃない」
K.O!
「……ふっ」
「あっ、コイツ! 今鼻で笑ったな⁉︎ 上等だ! 今からその顔を泣き顔に変えてやるからな⁉︎」
「やれるなら」
「よっしっ! ならまずはコンボ決めて……!」
「……下投げ」
「チックショーッ‼︎」
K.O!
──まぁ、遊び相手というよりは練習台で終わるのだが。