ふざけるなッ!
気がつくと、丘夏は政を怒鳴りつけていた。
乙女は勇気を振り絞ってここに来たのだ。だというのに政は乙女を見ようとしない。
この男は本当に乙女の父親なのか、そう思ってしまうほどに丘夏はふつふつと怒りを沸させた。
「どうして……どうして乙女ちゃんに会おうとしないんですか……!」
「……」
「会う事もしないんですか! そこまで乙女ちゃんの事が嫌いならどうして僕たちを来させたんですか!」
「……」
「あなたは乙女ちゃんの父親でしょう⁉︎ 父親なら──」
「──十年前、私は乙女の首を絞めました」
一瞬、丘夏には政が何を言っているのか全く分からなかった。
「え……?」
その言葉の意味を理解するのに丘夏は数秒の時間を要する必要があった。
「泣かないで、とそう言って慰めようとしたあの子の首を私は絞めたんです。両手を使い、いなくなってしまえと殺す気で首を……絞めました」
「な、何を言って……」
言葉は分かる。だが、分からない。
首を絞めた。
乙女はそんな事、一言も言わなかった。
「十年前、私が乙女を拒絶するようになった理由についてですよ。あれ以来、私は乙女に会っていません。……会わせる顔がない」
「どうしてそんな事を……」
「亡くなった妻の面影をあの子から嫌でも感じてしまって……今思うと酷く勝手で情けない理由ですよ」
「だから……会わないと? 乙女ちゃんを拒絶し続けているんですか?」
「ええ。今回も私は乙女に会う事は出来ません。私にそんな資格はありませんから。ただ、その事を友人であるあなたには知って欲しかった……」
「けど、そんなの……」
「……あれから十年。私は何度も乙女と向き合おうとしました。
ですが、駄目でした。だれだけ年月が経っても私の頭の中であの時のことが散らついてしまって……途端に私は乙女から逃げてしまう。情けない事に怖くて怖くて堪らないんですよ。こんな人間が乙女に近づいていいのかと。また乙女に何かをしてしまうんじゃないか、と」
それは長い政の告白だった。
政は長い間、乙女を拒絶する間も苦しんでいたのだろう。
その苦しさは丘夏には分からない。
「だから……私には無理だ。乙女と向き合うことなんて……」
……が、分からないがそれはこの場を引く理由にはならない。
息を大きく吸い込み、丘夏は再び怒鳴った。
「ふざけるなッ!」




