引っかかったな馬鹿め!
車で移動する事、三十分。
曲がりくねった山道を乗り越えて、丘夏達はようやく目的地である那須野の本社にたどり着いた。
「……到着だ」
「ここが那須野の本社……」
見上げると東京にあるような高いビルが目の前にそびえ立っていた。
「こんなところにこんな建物があったなんて……全く気づかなかったよ。下野荘からそんなに離れてないよねここ?」
「うん。けど、ここは山奥にあるから見つけにくい。どうしてこんなところに立てたのかは分からないけど……」
チラッと、乙女が夜切を見た。
「……さあな。俺にもよく分からない」
「社長に聞くとかした事ないんですか?」
「聞いた。が、誤魔化すだけで何も答えてくれなかった」
「……何か深いわけでもあるんですかね?」
「それは本人に直接聞け。俺は主人じゃない」
「ごもっとも」
夜切が自動ドアの前に立つと機械音がし、ドアが開く。
くぐり抜けた夜切はついてこいと言う風に手招きする。
「じゃあ、行こうか乙女ちゃん」
「……うん」
二人に並んで歩き、丘夏達は夜切についていく。
どんどん奥へと進むとその時、夜切の携帯が鳴った。
「はい。……そうですか、分かりました」
わずか数秒。
とても短い会話を終えた後、夜切は携帯を切った。
「誰からです?」
「嫁からだ。今日はハンバーグだと」
「いや絶対嘘ですよね?」
奥さんとの会話があんな事務的なものだとは思いたくない。
「何、お前達にはどうでもいい事だ」
「はぁ……」
「それよりちょっとそこの部屋に入ってくれないか?」
夜切が通路にあるドアを指差す。
「ここが待ち合わせの場所なんですか?」
「いいや、だがその前にちょっとした用があってな。……付き合わせて悪いな」
「私用って事ですか。まぁ、いいですけど」
「ん」
そばにいた乙女がドアに入る。
続いて丘夏が入ろうとすると、その間に夜切が割り込んだ。
何をするんですか、という暇もなく夜切が素早くドアを閉めどこからか取り出した鍵で施錠した。
「ちょ……⁉︎ 夜切さん⁉︎」
「よし、用事は済んだし行くぞ」
「いやいや! 乙女ちゃんがそこに閉じ込められて……!」
「いいから行くぞ、主人が待っている」
有無言わさずに夜切が丘夏の腕を引っ張る。
抵抗しようとするが、いかんせん力が強くて手を振り解けない。
結局、乙女のいる部屋から丘夏は引き剥がされてしまった。




