嫁入りである
「ここなんだね……」
「……うん」
丘夏と乙女、二人は墓の前に立っていた。
乙女の呼び出しは……成功した。
会って話したいとメールを送ると、しばらくして返信が返ってきたのだ。
『明日の朝十時墓前』。
文字数にしてわずか八文字。詳しい場所すら書いていない。
墓前とは誰の墓の事なのか、分からずにいたが乙女は言った。
『この墓前っていうのは……お母さんの墓の事だと思う』
『乙女ちゃんのお母さんの?』
『うん。それしか考えられない』
『……そっか。それで明日の事なんだけど』
『私も……行く』
『いいの?』
『いいも何も覚悟はもう、決めてるから……』
『……分かったよ』
そんなわけで乙女が丘夏についてくる事になった。
もちろん不安はあった。どんな結末を迎えるのか、またまた迎えないのか……どうなるかなんて分かるはずがない。
だが、どのような終わりを迎えようと後悔しなければいいと丘夏はそう思っていた。
背後で足音が聞こえる。
ついに来た。
固唾を飲んで振り返ると、そこには──
「……待たせたな」
癖のない髪型に奥行きのある瞳。
スマートに着こなされた執事服に、輪郭の整ったきりりとした顔。
そこには──男でさえ二度見してしまうほどのイケメンがいた。
「……えっと、誰ですか?」
この男と丘夏の年齢差は三、四歳といったところだろうか。そもそも顔が乙女とは全く似ていないので、丘夏にはこの男が乙女の父親ではない事が理解できた。
「……夜切さん」
「乙女ちゃん、知り合い?」
「うん、夜切さんは執事の内の一人。家にいた時はよく遊んでもらっていたけど……」
「けど?」
「……よくお尻を触られてた」
「変態だ⁉︎」
丘夏は咄嗟に乙女と男の間に割って入る。
そんな変態に乙女を触れさせてやるものか。
男がやれやれといったふうに首を振る。
「勘違いするな。あれはスキンシップだ」
「セクハラする人間は皆そう言うんだよ!」
「痴漢する人間もそうらしいが、まぁ俺には関係ない事だ」
「あんたの事だよ! 何、流してるんだ⁉︎」
思わずツッコミを入れていると、憂に満ちた表情で乙女が男に尋ねた。
「……夜切さん。十年前、あなたは烏山家の執事を辞めたはず。それなのにどうしてまたそんな格好を?」
「……」
男、夜切は露骨に目をそらした。
何か、言えない事情があるのか、それともやましい何かがあるのか。
「答えて夜切さん。どうして、あなたは十年前私から離れたいったの?」
「……離れたいわけ決してじゃなかった。だが、仕方なかったんだ」
はぁ、と一息ついて夜切は顔を伏せて言った。
「結婚を申し込んだらふわの兄が出てきて殺されそうになってな……」
「ちょっと何を言ってるのか分からないんだけど?」




