そういうこと
「イチャラブの最中悪いんだが、話に入ってもいいか?」
「「⁉︎」」
抱き合った状態から聖が部屋に入ってくる。
慌てて丘夏は乙女から離れる。
聖がドア付近で待機させていた事を素で忘れていた。
「い、イチャラブはしてない!」
「はいはい、リア充爆発しろ」
「だからそんなんじゃないって……!」
「んで、説得は済んだんだな。それじゃあ、早速那須野に質問だ」
床にどっかりと座り、聖は乙女と向き合った。
「最後にテメェが父親に会ったのはいつだ?」
「……十年前」
渋い顔をして乙女が答える。
やはりまだ烏山と関わろうとする事に抵抗があるのだろうか。
「それっきり会ってない、か。そんでテメェはその十年間父親に会おうと何かしたか?」
「……してない」
「そうかよ」
だったら話は簡単だ、と聖は口元を吊り上げる。
「会いたい、とテメェが父親に連絡すればいい。それが父親に方法としては一番可能性が高ぇ」
「……!」
「ちょっと待った聖。その方法で本当にいいの?」
「他に何かあんのか? 無駄に策を凝らすよりオレは率直にやった方がいいと思うぜ」
「うっ……でも、乙女ちゃんが」
乙女を見ると、顔を青くし体を震わせている。
父親に連絡を取る。
烏山に怯える乙女にそんな事が出来るのだろうか。
ここは慎重にとそう思ったのだが、その前に不機嫌そうに聖が乙女に吐き捨てた。
「ビビってんじゃねぇよ。ツケを払う時がきたってだけだろうが。今まで見ないフリをし続けたのはテメェなんだからよ」
「聖! そんな言い方……!」
「……ううん、大丈夫丘夏。ボンボンの言う通りだから。過去と向き合わなきゃ、だから……」
「乙女ちゃん……」
拳を握り、歯を食いしばる様子から乙女が無理をしている事が目に見えた。
今乙女は過去と、父親と向き合おうとしている。
ならば丘夏はそれに全力で協力するだけだ。
「……連絡の方法は通話でもメールでも何でもいい。兎に角、会うように連絡しろ。それでテメェの仕事は完了だ」
「分かった……やってみる」
ポケットから携帯を取り出した乙女は自分の仕事を果たすため、別室へと向かった。
「そんでテメェはアイツの父親に会ってどうするつもりだ? まさか本当に殴るつもりじゃねぇだろうな?」
「場合によってはあるかもね」
「オイ」
「まぁでもさ……僕は僕に出来るをやるだけだし」
「はぁ? 何だそれ?」
「そういうことだよ」




