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しもつけそう。  作者: 白菜
第五話 出かけよう、そうしよう
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誰だお前

「幸せな家庭だった。家は裕福で、物をねだれば何でも貰えた」


 幼い頃の記憶。

 確かに自分は幸せだった事を覚えている。


「お母さんは優しくて、お父さんはかっこよかった。他の皆も……私によくしてくれた」


 本当に幸せだったのだ。

 これ以上にないくらい幸せだったのだ。


「でも、その幸せは壊れた」


 バラバラに。コナゴナに。

 何もかも砕けた。


「お母さんが……死んだ。流行病だった」


 私は泣いた。

 お父さんも泣いていた。

 皆、泣いていた。

 泣いて、泣いて、泣いて……壊れた。


「皆、お母さんが亡くなってショックだった。私も悲しかった」


 幼い私は本当に悲しかった。

 悲しかったから……愛を求めた。

 いや、幼い私はそんな事を考えてなかったのかもしれない。

 多分、ただ誰かと一緒に泣きたかったのだろう。

 真っ先に思いついたのはお父さんだった。

 かっこ良くて、頼れるお父さん。

 悲しかったのはお父さんも同じなのだ。きっと悲しみを共有出来ると信じていた。


『近づくな! 私に、近づくなぁっ!』


 だけど返ってきたのは明確な拒絶だった。

 それからお父さんはずっと私を拒絶し続けた。

 私なんかと会いたくないと、そう言うように私の顔を見ようともしなかった。


「そうしたら一人になった。何故か私の周りの人が皆いなくなっていった」


 実を言うと、私は昔の事をぼんやりとしか覚えていない。

 それでもお母さんが死んだ事、お父さんに拒絶された事、一人で寂しかった事だけはよく覚えていた。


「中学生になって私は烏山から追い出された……ううん、自分から逃げた。あそこにいると寂しかったから。悲しかったから」


 姓も祖母の方に変えて、それからは下野荘で過ごしてきた。


「私は……烏山が嫌い。あそこにいると、怖くて震える。また誰かに拒絶されるんじゃないかと、周りに誰もいなくなるんじゃないかと……不安になる」


 だから私は烏山の人間じゃない。

 烏山ではなく、那須野だ。

 那須野の人間なら……誰も私を拒絶しない。

 誰もいなくならない。


「……一つ聞かせて」


 それまで黙っていた丘夏がそこで口を開いた。


「乙女ちゃんは……この事を僕や下野荘にいる皆が乙女ちゃんを拒絶するとそう思ってたの?」

「……ううん、でも怖い」


 もしもそうなったらって、考えてしまう。


「だろうね。それならそれでいいよ」




 丘夏は私の頭を撫でた。

 私を安心させるように。




「僕は乙女ちゃんを拒絶したりしない。悲しい時に一緒に泣いてやれるかどうかは……分からない。でも、こうやって何かを聞いてやる事は出来るからさ」

「……うん」

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