起こりうる『もしも』は無駄じゃない
「おかげでいいものが買えましたよ。ありがとうございます大家さん」
「いいのいいの。わたしもいい暇つぶしになったしね」
「ははは……」
花屋で買い物を終えた後、丘夏達は喫茶店でお茶をしていた。
ちなみに喫茶店は下野荘の近くにある、『Cool』という店でそこで大金がバイトして働いている。
「にしても乙女ちゃんは本当にどこに行ったんですかね? いつも乙女ちゃんって休日は家でゲームをしてるだけだっていうのに……」
「何、鴻野山君、気になっちゃうの?」
「まぁ、そりゃあ。あのゲーム廃人がゲームする時間を割いてまでどこかに出かけるなんて……異常ですよ」
丘夏がそう言うと、何故か穂花はがくりとテーブルにうつ伏せる。
一体、どうしたのだろうか。
「……鴻野山君の乙女ちゃんに対するイメージってそんなんなんだ」
「少なくても普通の女子だとは考えてませんけど」
「じゃなくて! そこは普通男が出来たとかそういう事を考えてしかるべきじゃないの⁉︎」
「男……ですか?」
「そうだよ。乙女ちゃんがゲームする時間を割いてまで出かけたのはもしかすると男が出来てデートをしに行ったからじゃないのかな?」
「うーん……」
丘夏は頭の中で乙女が誰か男と腕を組んで街中を歩く姿を想像しようとしてみる。
が、全くイメージが湧かない。
キャッチセールスかチンピラに騙されてどこかに連れて行かれる姿ならいくらでも想像できるのだが。
「ないですよ大家さん。だって乙女ちゃんと付き合う男がドジに巻き込まれる事になるんですよ? アレに耐えられるそんな根気強い男、僕は生涯の中で誰一人として見た事ないですよ」
「もしかしたら、万が一って事もあるかもよ?」
「万が一もないと思うんですけど……」
「……じゃあさ、もしでもいいから考えてみてよ。乙女ちゃんが誰かと付き合う事になったら……鴻野山君はどう思う?」
「そんなどう思うと言われても……その人は大変そうだなぁ、としか」
「本当に?」
「……」
穂花の視線が丘夏に突き刺さる。
今丘夏が言った事に間違いはない。だが、それだけではないのだ。
そして丘夏自身にもそれは口に出来ない。
分かってはいる、だが同時に分かっていない。
そんなモヤモヤしているものが丘夏の中には確かにあった。
「……もしもの事なんて話すだけ無駄ですよ」
丘夏はそれを解消しようとはしなかった。
分からないふりをして丘夏は誤魔化しの言葉を口にした。
「そっか。そうだよね」
「はい、そうですよ。ところであそこの建物って何なんですか?」
「ああ、あれは大学でね。割と大きいし、中には色々……」
その後は和やかな談笑が続いた。
だが、丘夏は喫茶店を出るまで会話の中、『もしも』の話がずっと引っかかっていた。
本当の事を口に出来ていたら……こんな事は考えなかったのかもしれない。




