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しもつけそう。  作者: 白菜
第五話 出かけよう、そうしよう
43/61

トリヤマじゃないからねっ⁉︎

「ところでおじさんは一人でここに?」

「ええ。本当は娘と一緒に来たかったんですけどね……」

「何か都合でも?」




 男性はどこかばつが悪そうに頬を掻きながら言った。


「いつもの事なんですけどね……『お父さんとは行きたくない』ってそう言われて誘いを断られてしまうんですよ」

「ははぁ、何か喧嘩でもしているんですか?」

「ちょっと大家さん。初対面の人に何でも聞きすぎじゃ……」

「別に構いませんよ。私、あなたのような積極的な人は嫌いじゃありませんから」

「……何かすいません」


 丘夏が悪いわけではないというのに頭を下げてしまう。

 男性が人の良い人でよかった。こういう人を世間一般的には『大人』と呼ぶのだろう。


「あなたの言う通り、娘と……そう、喧嘩をしているんです。それも大喧嘩で十年も互いの顔も見ていないほどで」

「十年⁉︎ そんなに長い間、娘さんと会っていないんですか⁉︎」

「……何度も会おうとはしたんですけどね。向こうは顔も見たくないない様で」

「という事はそのお母さんの墓参りにも娘さんは……」

「いえ、娘も母が大好きでしたので墓参りには毎年訪れてはいるようです。他の家族にはちょくちょく顔を見せていますしね。ただ……私には会いたくない、そういう事らしいです」

「……会いたいとは思わないんですか」

「思いますよ。いつでも、今でも……」

「……」


 寂しそうな顔をして話をする男性には哀愁が漂っていた。

 流石の穂花も口を閉じて、顔を伏せていた。

 それから男性は腕時計を確認すると、声をあげた。


「おっと……もうこんな時間ですね。私はこれで失礼させていただきます。つまらない話をしてしまって申し訳ありませんでした」

「いえ、こっちこそ……時間を取らせてしまってすみません」


 口を開かない穂花の代わりに丘夏は男性に手を振る。

 男性が丘夏達から背を向ける。背を向けながら男性は言った。


「気にしないでください。中年の何の価値のないお話です。右から左に流して忘れてしまってください」


 男性はそう残して店から出て行く。

 しばらくしてその姿は完全に見えなくなった。




「……ヘビーな話だったね」


 穂花がポツリと言った。


「聞かなきゃよかったですか?」

「もっと色気のある話を聞けると思ったんだけどな……でも、聞かなきゃよかったとは思わないよ」

「懲りませんね……」

「積極的なのがわたしの美点だからね」

「欠点である事も自覚してください」


 悪びれない穂花に丘夏は少しは反省してくれと頭を抱える。




「……あれ? 何か落ちてるよ?」

「本当ですね。これは……名刺みたいです」

「さっきのおじさんのかな?」

「トリヤマ……ですかね。きっと会社員か何か何ですね」

「違うよ鴻野山君」

「え?」

「それはね……」




「──烏山からすやまって読むの」

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