多分、おっぱいに目が眩んでいる
乙女は学校でも変わらずドジっぷりを発揮する。
「──っ!」
「本日三回目、っと……」
下駄箱の前でまたもや顔を打ち付けた乙女を丘夏は淡々と引き起こしてやる。
今度は足がもつれたらしい。
「ありがと、丘夏……」
「礼なんていいって」
丘夏としては可愛い美少女の手に触れるだけで満足なのだから。
なんて言ってしまえば確実に引かれる事間違いなしだろう。
そっけない表情を作り、なんとか取り繕う。
「それよりちゃんと足元は見なきゃ駄目だよ? 乙女ちゃんに言っても仕方ないのかもしれないけどさ」
「……そんな事ない。集中すれば転ばずに済む」
「それって逆に言えば集中しないと転ぶって事だよね」
「ん。集中しないと転ぶ」
「どうして乙女ちゃんは純真無垢にそんな台詞を吐けるの……?」
「私だから」
「うわー、答えにもなってない回答が返ってきたー」
言ってる間に乙女は段差につまづき、転びかける。
堪えた途端、さっと顔を丘夏に向け親指を立てる。
早速、集中する事によって転ぶ事を避けれたのかもしれない。
その動作が可愛かったので思わず丘夏も乙女に親指を立ててやった。
「転ばずにいられるんなら、いつもそうしてればいいんじゃないの?」
「無理。集中力が持たないし、それに……」
「それに?」
「他の事に気が回らなくなるから、違う事でやらか──っ!」
蹲り、突如として乙女は右手の小指を左手で押さえる。
どうやら下駄箱に靴を入れようとして思い切り小指をぶつけたらしい。
……なるほど、こういう事か。
「わ、分かった?」
「うん、十二分に理解したよ」
つまり何をしてもドジをやらかすのは変わらない、と。
「痛い……」と小指を口に咥える乙女に丘夏は額に手を当てる。
何をしてもドジを踏んでしまう乙女を丘夏は割と本気で心配していた。
近い将来、乙女にも伴侶となる人物が現れるのだろう。その人物が大変な苦労を負うのを想像するには難くない。
そもそも乙女に伴侶なんて出来るのだろうか。
乙女のドジに付き合うようなもの好きなんて現れるとはとてもじゃないが思えない。
「……」
ほんの少しだけ。
若気の至り、という奴なのか丘夏は大人になった乙女の横に自分がいるのを想像してしまった。
が、すぐにいやいやと首を振る。
確かに乙女は丘夏好みの美少女だが、付き合えば間違いなく苦労が絶えない毎日になるだろう。
こうしてアパートの隣人として関係を築いている今でさえ振り回されているというのに、そんなのはごめんだ。
「……しばらくは付き合うつもりではあるけど」
廊下を歩く乙女を眺め、丘夏はまるでツンデレのような台詞を呟く。
乙女が何もない場所でこけた。
本日四回目だった。