ゆあーん
205号室に向かうと、そこには二メートルは優に越えている化け物が現れた。
「お、乙女ちゃん! 化け物! 目の前にでかい化け物が見えるんだけど⁉︎」
「落ち着いて丘夏。確かに化け物だけど少なくても人は食べない」
「おい、おっとー。どうして化け物である事を否定しないのだ」
乙女に言われ、おそるおそる目の前の化け物をよく見てみる。
すると、その化け物の正体がものすごく大きい男性が小さい女の子を肩車させているだけという事に気付いた。
が、やはり驚くべき事には変わりない。
特に男性の方。明らかに身長が二メートル近くある。そんな男性が小学生くらいの小さな女の子を肩車させているのだから絵面的に……こう……何とも言いがたかった。
「え? 実際、化け物じゃ……?」
「純粋無垢な顔でそんな事言われてもな……ゆあん達も化け物扱いは傷つくぞ。なぁ、兄ちゃん」
「……」
「ほら。兄ちゃんもそう言ってるぞ」
「今一言も喋ってなかったよね⁉︎」
丘夏の見間違えじゃなければ男性の方が固く口を閉ざし、一言も言葉を口にしていなかったはずだ。
ツッコミを入れると、ああそうだったと女の子が丘夏の方を見た。
「それで、お前は一体何なのだ? ゆあんの部屋にピンポンダッシュをしに来た人か?」
「そんな趣味僕にはないよ! ……僕はこの部屋の隣、204号室に引っ越しする事になった鴻野山丘夏だよ」
「あー、そんな話を確かに聞いたなー。それでゆあん達の部屋に挨拶しにきたって事なのか?」
「ああ、そうだよ。ほら、一応挨拶品を持ってきたし……」
つまらないもの(タオル)を差し伸べると、それを男性の方が受け取って肩に乗っている女の子にバトンのように受け渡した。
「律儀な奴だな。ならゆあん達の自己紹介もしなきゃだな。……兄ちゃん、頭」
言うなり、男性が頭を深々と下げる。
女の子の方は男性の腰の辺りにきっちりと正座をしている。
器用な事だ。
「まずはゆあんから名乗らせてもらうぞ。ゆあんの名前は『ゆあん』だ。それ以上でもそれ以下でもないぞ!」
「わけが分からないよ⁉︎」
自己紹介にならない事は予想してたが、まさか苗字すら分からないとは。
これではゆあんという名前が本名かどうかすら疑わしい。
「それでこの頭を下げているのがゆあんの兄ちゃん、仁井田薫だ。大きくて……硬いぞ! どっちもな!」
「畜生! 最後のなければスルーしたのに!」
「お前は……小さそうだな」
「うるさいよ⁉︎」
下野荘の住民はどうしても丘夏にツッコミをさせたいらしい。




