需要はない
「何はともあれ、これにて一件落着って事かな……」
丘夏がやれやれと肩を撫で下ろすと、聖は明らか様に不満そうな顔を有墨に向ける。
「おい有墨。それならそうと、もう少し早く言えなかったのか……?」
「申し訳ありません。何せわたくしは存外お茶目な性格なもので」
「無表情のままお茶目と言われてもな……まぁ、いいか。それより助かった……ありがとな」
「おや。何か言いました?」
「最後の方が聞こえなかったんだけど聖?」
「ニヤニヤするんじゃねぇよ! ありがとう、って言ったんだよバーカ!」
顔を真っ赤にヤケクソに聖は叫んだ。
本当にからかいがいのある友人だ。
「男のツンデレとは新しいですね」
「しかし需要は……」
「いい加減にしろよテメェ等……それと丘夏」
「ん?」
「さっき裏切った事をオレは忘れちゃいねぇぞ……?」
こめかみの辺りに血管を浮かび上げ、聖は笑顔で拳を握っていた。
言うまでもなく聖はメチャクチャ怒っていた。
無駄だとは思うが一応、謝っておく事にする。
「あー……ごめんなさい許してください」
「それで済むかアホ! つか誠意の欠片も感じられねぇ!」
「誠意を込めたつもりはないからね。でも、まぁその前に聖はさ、僕をどうこうする前に……」
「あ? なんだよ?」
「横で縄を手に持つ塩谷さんをどうにかした方がいいと思うよ」
ギ、ギ、ギ、と壊れかけのおもちゃのように聖は首を動かし横を向いた。
勿論、そこには縄を構えた有墨が。
「ちょっ、ちょっと待て有墨。何の真似だ? もうテメェにはオレを狙う理由は……」
「聖様。それはそれ、これはこれですよ。確かにわたくしには聖様を主人の元にお連れする理由はありませんし、それを理由に聖様を襲う事も勿論ありません。ですが聖様が勝手にパーティーを抜け出した事についてはお仕置きが──」
言い終わらない内に聖は部屋のドアから出て行った。
追うように有墨も部屋のドアから出て行く。
『クソがああああぁぁぁぁっ‼︎ テメェはやっぱ、敵なんじゃねぇかああああぁぁぁぁっ‼︎』
『いえいえ、わたくしは聖様の味方ですよ? ……ただしお仕置きの間は別ですが』
しばらくの後、再び男の悲鳴が上がった。
丘夏はそれを無視して乙女とやるゲームの準備を始めた。




