けれど味方
「いい加減、諦めて観念してください聖様。いつまでも駄々をこねるなど子供ではないのですから」
「こねたくて駄々こねてるわけじゃねぇ……つか、それを言うんだったらあのクソ親父に言えよ。それとオレがやってる事はごくごく普通の当たり前の事で寧ろテメェ等がやってる事の方が異常だからな?」
諭すように説得を続ける有墨。
しかし、聖は拒否の一点張り。
この問答は丘夏が数えただけで既に十回は超えている。
「わたくし達がやってる事が異常なのは理解していますが、何せ主人の命令ですから仕方のない事なのです。それは聖様をご存知の事でしょう」
「あー、知ってる。耳にタコが出来る程知ってんよ。……けどよ、それに一切の拒否を示さずに指示通りに行動してんだからやっぱ異常には変わんねぇよな」
「わたくし達はそういう存在ですから」
「あっそ。けど、オレはテメェ等とは違うからな。あんなクソ親父の言う事をホイホイ聞く人形みたいな存在にオレは絶対ならねぇ! 分かったら帰れ!」
「分かりました。……ではようやく観念するという事でよろしいのですね?」
「テメェ、オレの今の台詞を聞いてたか⁉︎ 『分かりました』じゃねぇよ! 何にも分かってねぇよオレの決意とかそういうのがよ!」
「『けど、オレはテメェ等とは違うからな。あんなクソ親父の言う事をホイホイ聞く人形みたいな存在にオレは絶対ならねぇ!』(笑)」
「テメェはさっきからぶっ殺されてぇのか⁉︎」
丘夏が茶々と入れると聖は怒り狂った。
修羅場になられては困るので、シリアスな空気を壊そうという配慮だったのだが有墨のおかげでその配慮も無駄になったようだ。
「こうなれば仕方ありませんね。多少、無理やりにでも──」
その時、有墨の携帯が鳴った。
失礼します、と一言言ってから有墨は携帯を耳に当てた。
「…………はい、そうですか。…………ええ。やはりそうなりましたか。…………ではそのように」
しばらくの会話の後、有墨は通話を切り、再び聖と向き合う。
「聖様に朗報です。単刀直入に言えばとの婚約が破棄されました」
「……はぁっ⁉︎」
「えっ、何があったの?」
これには聖は勿論、丘夏もびっくりである。
何がどうなっていきなり破棄という事になるのか。
「つい先程ですが、大金家の者と名乗る不審者達が烏山家の敷地で大暴れをした挙句、烏山家の使用人達全員を再起不能になるまで痛めつけたとの事でその事で烏山家は大変お怒りになったのです」
「それで破棄……って、ちょっと待ちやがれ。その不審者達ってのはまさか……」
「不審者達が何者であるかは分かりかねますが……麻酔銃を持ったメイド達だったと烏山家の者からは伺っています」
唖然とする聖。
それはそうだ。話を聞く限り、烏山家で暴れたのは……。
「言ったでしょう。わたくしは聖様の味方である、と」
言うなり、有墨は悪戯っぽく微笑んだ。




