身の安全 < 例のブツ
「それでまず烏山家の方に行こうとしたんだがな……あっちはもう麻酔銃を武装したメイド達に警備されていてとても入れるような状態じゃなかった」
「僕の中のメイドさんのイメージが崩れるよ。で、その後は?」
「一度見つかちまって、その場から命からがら何とか逃げ出してな。どこかに身を潜められる場所はないか考えたんだが……」
聖がバツが悪そうに頭を掻いた。
「……そこでどうして僕の部屋に来るのさ」
「し、仕方ねぇだろ! 俺の部屋じゃ間違いなく見つかるだろうし、丘夏の部屋ならメイド達もこねぇだろうし……」
「いやいや。他のメイドさん達なら兎も角、塩谷さんは僕と聖が仲が良いのを知ってるよ? だったら僕の部屋にもメイドが来るんじゃないの?」
「うっ……確かに……」
「命からがら逃げて来たところ悪いんだけど、他の場所に行ったら? 乙女ちゃんの部屋とか」
「お前……それはねぇよ……」
「え? 何かマズい?」
「マズいに決まってるだろうが! 色々な意味で!」
「うーん、そう?」
丘夏としてはいい案だと思ったのだが。
「じゃあ小塙さんのところとか……」
「もっとマズいわ! テメェは俺に地獄に行けっつーのか! ざけんな!」
丘夏はあっはっは、と陽気に笑いながら常に下半身を露出する201号室の住民の姿を思い浮かべる。
アレを接するのは確かに地獄かもしれない。
「なら大人しくメイドさん達に捕まるしかないんじゃない?」
「おい、選択肢限られ過ぎだろ! 地獄か死しかねぇじゃねぇか!」
「寧ろその二つだけあるだけマシだと思うよ」
「どこがだ! つーか、匿ってくれよテメェの部屋で!」
「えー。何か僕にまでとばっちりがきそうだから嫌なんだけど……」
「そこを頼む! このままじゃメイド達にボコボコにされた上によく分からないロリと結婚する事になっちまう!」
「ある種の人からしたらご褒美にしか聞こえないよね、それ」
さて、どうしようか。
このまま聖を匿ってしまえばほぼ間違いなく面倒事に巻き込まれるに違いない。
最悪、聖と共にメイド達に追われる羽目になるかもしれない。
それは、嫌だ。なってはいけない最悪の展開だ。
しかし、他ならぬ聖の頼みだ。そんな唯一無二の友人の頼みを丘夏は無下になんて出来なやしない……。
自分の身の安全か。友人か。
二つを天秤にかけて、割と早い段階で丘夏は答えを導き出した。
「お帰りはあちらのドアだよ」
「ちょっ⁉︎ 待て待て待て!」
唯一無二の友人の命は丘夏の中では羽のように軽かった。
「さよなら聖。せめてもの情けにどうか安らかにね……」
「おい聞けよ⁉︎ 祈ってんじゃねぇよ!」
「来世でまた会おうね親友!」
「その親友をテメェは無慈悲に外に放り投げるつもりか⁉︎」
騒ぎ抵抗する聖を丘夏は無理やり外へ出そうとする。
さっさと出て行ってもらおう。思い、足をも使って聖をぐいぐい押す。
丘夏にはこの後、乙女とゲームがやる約束があるのだ。聖に構っている余裕などない。
ましてや自分の身の安全を考えるなら──。
「分かった! 今度、俺のとっておきのブツ、『◯◯××でしちゃう!』をテメェにや」
「よし親友! 僕の部屋だったらいつでも何時間でも貸すよ!」
丘夏は良い笑顔で快諾した。




