推定Eの天然クッション
歩く途中、乙女はよく転ぶ。
「──っ!」
「大丈夫、乙女ちゃん?」
排水溝の溝に足を引っ掛けたのか、乙女は顔から盛大に転んでしまう。
本日初となる転びはスカートを完全に捲れ上がらせ、パンツがモロ見えという百点満点中百点の転び方だった。
いつものラッキースケベに慣れている丘夏は「今日はライトグリーンか……」と冷静に観察してから乙女のスカートを元の位置に戻してやった。
……毎回思うが、乙女は意外といい下着を着用している。
「……痛い」
「顔を地面に打ち付けたんだから当たり前だよ」
涙目で打ち付けた顔を晒す乙女。
鼻の先がほんのり赤く染まっていた。
「あー、鼻が赤くなっちゃったね。傷がないのが幸いかな」
「ん。それなら良かった」
「そういえば乙女ちゃんってよく顔から転ぶけど、顔に傷ができないよね」
「小さい時はよく出来てた。けど、だんだんと大きくなる内にどう転んだら傷ができないか分かって……」
「そこは何とかして転ばない努力は出来なかったのかな……?」
「あと、転ぶ事に耐性がついたのか体が丈夫になった。最近はアパートの階段から転げ落ちても無傷だった」
「それ耐性がどうこうの問題じゃないからね?」
乙女の程のドジっ子になると階段から転げ落ちても傷つかない、サイボーグの体を手に入れる事が出来るらしい。
悲劇を元にその体を手に入れている事を考えたら、自分も手に入れたいとは微塵も思えないが。
「いや、でも階段から転げ落ちたら流石に怪我すると思うんだけど……」
「しない。体が丈夫だから全くの無傷」
「無傷」ともう一度言って、乙女は胸を張りながらドヤ顔をした。
よほど体の丈夫さを強調したいのだろうか。
「そんな丈夫とかレベルじゃ……ん?」
ふと目につく。
何にか。乙女のたわわな胸にだ。
より詳しく言うなら、たゆんと今にも音を立てそうな巨大な双丘に、だ。
目を閉じ、丘夏は想像する。
乙女が階段から転げ落ちた時、果たしてこのおっぱいはどうなるのか。
ただ揺れるだけか? ただ跳ねるだけか? ただそこに存在するだけなのか?
否。
目を限界まで見開いた丘夏は答えを導き出した。
「なるほど……クッションか」
「……?」
天然クッションは本人には無自覚に仕事をしているらしかった。