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しもつけそう。  作者: 白菜
第三話 丘夏君によるお料理教室
27/61

しょっぱいけれど甘い

 乙女が料理してから一週間が過ぎた頃。

 休日にいつものように丘夏は乙女と二人でゲームをやっていた。




「あーくそっ、また負けか……」


 画面に『LOSS』と映ったゲーム機を投げ出し、寝転がる。

 何度やっても丘夏は乙女に勝てなかった。丘夏もそれなりにやり込んでいるはずなのだが、一度すら勝てない。

 これは本格的にハンデを考えるべきなのかもしれない。


「乙女ちゃん、少し休憩しない?」

「うん……でも、ちょっと待って」

「? どうしたの?」


 ゲームが終わったかと思うと、モジモジとしだす乙女。

 やがて意を決したように背中の陰に隠してと思われるものを丘夏に向かって差し出した。


「丘夏……これ」

「え? これって……」


 腕を震わせながらそれを差し伸べる乙女。

 ホットケーキだった。


「もしかして……乙女ちゃんがこれを作ったの?」

「うん……そう。受け取って」


 皿に乗った一枚のホットケーキを丘夏は受け取り、それをまじまじと見た。

 焦げてない。それに見る限り苺など、余計なものも入ってなさそうだ。

 普通の、どこにでも見るようなホットケーキだ。


「練習した。上手く出来るように何枚も……だからきっと美味しくできたと思う」


 手わすらをする乙女の手は少し荒れていた。


「……でも、どうして僕に?」

「丘夏にはいつも世話になってるから……一番初めにこのホットケーキを食べてもらいたかった」

「乙女ちゃん……」

「丘夏。食べて……みてくれる?」

「勿論だよ」


 乙女が丘夏のために作ってくれたのだ。

 その時点で断る理由なんてありはしなかった。

 手渡されたフォークを使って、ホットケーキの欠片を口まで運ぶ。


「──っ」


 それは食べ慣れた味で、

 間違いなくそれはホットケーキの味だった。


「ど……どう?」

「くくっ……! あっはっはっは!」

「……⁉︎」


 突然笑い出した丘夏に乙女はびっくりしたように目を白黒させる。

 笑いつつ、丘夏は言う。


「……乙女ちゃんさ、このホットケーキに何か入れた?」

「う、うん。甘い方がいいと思って砂糖をたくさん入れた」

「だろうね。そうじゃなかったらこんな味にはならないよね」


 フォークを乙女に返し、ホットケーキを食べるようジェスチャーで伝える。

 丘夏と同じように一欠片を口に入れた乙女はその瞬間、目をカッと見開いた。


「しょっぱい……⁉︎」

「塩と砂糖を間違えるなんて定番のドジすぎて笑いをこみ上げてくるよ……っ!」

「ううっ……」


 崩れ落ちるように乙女は座り込む。

 おそらくだが乙女はこの一週間、ホットケーキを作り続けたのだろう。それは荒れた手が物語っている。作り続けて作り続けて、一番上手に出来たのがこのホットケーキなのだろう。

 だから、いやそうでなくても丘夏は言っただろう。


「でもさ、美味しかったよ」

「え……?」


 美味しかった。

 乙女が作ったホットケーキは確かにしょっぱかったが、美味しかった。


「今まで食べたホットケーキの中で一番美味しい」

「ほ……本当?」


 一変して、眩しいくらいの満面の笑みを浮かべた乙女は安心したように言った。




「よかった」




 その後、丘夏は乙女の作ったホットケーキを完食した。

 その味はしょっぱいけれど、やはり甘かった。

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