犯人はホットケーキ
皿に乗ったホットケーキ(らしきもの)が異臭を放っている。
いや、異臭だけではない。皿に乗った今でも未だに燃え続けているのかプスプスを音を立てて、黒い煙を噴き出していた。
丘夏を含め、その場にいる全員が押し黙っている。
意を決して丘夏は皿を手に取った。
「さて、処分しようか」
「待つのだおっかー。その選択肢はまだ早いぞ」
皿ごとゴミ箱に入れようとしたところでゆあんに腕を掴まれた。
「何を言っているんだよ、ゆあんちゃん。邪神の供物みたいな物体を前にして処分以外の選択があると思ってるの?」
「で、でも折角おっとーが作ったものだぞ⁉︎ 食おうとは考えないのか⁉︎」
「ゆあんちゃんはコレが食えるものだと思ってるの⁉︎ 死ぬよ⁉︎ 食べたら死ぬよ⁉︎」
「……死なないとは、思う?」
「疑問系だよ! 作った本人も疑問系だよ! もうゴミ箱入りでいいよね⁉︎」
「もしかしたら奇跡的な可能性で美味しくできてる……かもしれないぞ」
何をそんなに処分するのが嫌なのかゆあんがそう言う。
「じゃあ、ゆあんちゃん食べてみてよ」
「え?」
そう返されるのが予想外だったのかゆあんが顔を引き攣らせる。
そこまで言うのだったら言った本人がまず一度口にするべきだ。
「えっと、その……おっとーはおっかーに食べてもらいたいんじゃないかー?」
……もしやゆあんは丘夏にホットケーキ(?)を食わせようとしているのだろうか?
何故だか視線をチラチラと乙女の方に向けるゆあんを見て、丘夏は疑念を抱いた。
何のためか。決まっている。あんなものを丘夏に食わせようとしているのだ。それが嫌がらせ以外に何がある。
そうはさせてたまるか。
「いやいや。ゆあんちゃんがそこまで言ったなら、ここはゆあんちゃんに一度味見をしてもらうのが筋でしょ。乙女ちゃんもそう思わない?」
「……ゆあん、食べてくれるの?」
「ううっ……」
乙女の援護射撃が入る。
瞳を潤わせながらの上目遣い。
同性相手でもかなりの威力を発揮するだろう乙女の上目遣いにゆあんに『拒否』の二文字が許されるはずがなかった。
「い、いただきます……」
ついにゆあんはフォークを手に取った。
プルプル震える手でゆあんはホットケーキをフォークで刺し、口元へと近づける。
その姿はまるで自ら死刑台へと一歩一歩、歩いていく様に似ていた。
その時だった。
「兄ちゃん⁉︎」
薫がゆあんからフォークを奪い取り、そのままホットケーキを口に運び入れたのだった。
むしゃむしゃとしばらくの咀嚼の後、薫は立ったままの姿勢で……吐血した。
「兄ちゃーんっ⁉︎」
「救急車! 救急車を呼ぶんだ!」
吐血した血が『ホットケーキ』の血文字になっているのが生々しかった。




