タダでも有料でも飯は飯だよね?
「はい、では丘夏君のお料理教室を早速始めたいと思います!」
手を高く挙げ、丘夏は部屋の中央でそう宣言をした。
パチパチパチ……気の抜けた拍手が一同からわずかに鳴る。
まぁ、一同と言ってもわずかに三人だけなのだが。
右から順に乙女、ゆあん、薫のTHE・隣人の三人で、全体的にテンションは低かった。
構わずに丘夏は続ける。
「目標は下野荘のマスコットこと乙女ちゃんがまともな料理を作れるようにする事! 難しいとは思いますがご協力をお願いします!」
「何なのだ、この茶番は……?」
頭を下げた丘夏に不機嫌そうにゆあんが言う。
折角、昼下がりに薫と二人で過ごしていたところを邪魔されたが気に食わないのかもしれない。
まぁまぁ、と丘夏はゆあんを宥める。
「後でそれ相応の埋め合わせはするからさ。今日のところは協力してくれない?」
「協力と言っても何をするのだ?」
「そりゃあ、乙女ちゃんにアドバイスしたりとか色々。僕はそこまで料理歴が長くないし、料理歴が長くて美味しい料理が作れる二人の方が教えるのは上手いでしょ?」
決して乙女が再度調理場を地獄へと作り変えた時、処理を手伝ってもらおうとか考えているわけではないし、味見とかになった時に犠牲になってもらおうとしているわけでもない。決して、ない。
「な、なるほど……そういう事ならまぁ、協力してもいいぞっ」
褒められて嬉しいのかゆあんは照れくさそうに頬を掻く。
非常にチョロくて助かる。
「けどそんなにひどいのかー? おっとーの料理?」
「悪魔が召喚出来るって言ったら信じる?」
「黒魔術?」
「同じ事を言ったよ僕も。そして乙女ちゃんはどうしてドヤ顔してるのさ……!」
「ひひゃいひひゃい、ひゃめて」
腹が立つ表情を浮かべる乙女を両頬をつねって遊んでやる。
「いい、乙女ちゃん。一人暮らしなのに自炊が出来ないなのは致命的なんだよ? コンビニ弁当ばかりじゃ身体に悪いし、毎日大家さんに作ってもらうわけにもいかないのは分かってるよね?」
「おっとー、そんな事をしてもらっていたのか?」
「大家さん、乙女ちゃんには甘いから……」
人の良く親切な穂花は乙女の事をベタベタに甘やかしてしまっているのだ。
穂花が乙女ちゃんを駄目にしてる原因であるとも言える。
「……このままじゃ良くないのは分かってる。丘夏達が心配する気持ちもよく分かる」
「だったら……」
「でも、私は大家さんからご飯を作ってもらっている内に……こう思った」
「──タダで食べるご飯は美味しい、って」
「早速調理にかかろう! これ以上乙女ちゃんを駄目人間の道へ進ませちゃ駄目だ!」
そんな考えが浮かぶ時点で手遅れなのかもしれない。
調理場へと一直線に向かう丘夏はそう思った。




