今日も美味しくいただきました
学校までの道のりを丘夏は乙女と並んで歩いていた。
「丘夏。聞きたい事があるんだけど……」
「何?」
ぼんやりとしながら、丘夏はその辺にある石ころを蹴った。
蹴った石ころはコロコロと転がり、壁に当たって地面に落ちた。
「どうして皆、私の事をドジだとかそういう風に言うんだろう?」
「乙女ちゃんがドジだからじゃないの?」
「ど、ドジじゃないっ」
頬を膨らませ、否定する乙女。
ナイトキャップを最近のファッションに仕立てた人物が言っても、中々説得力に欠ける言葉だ。
「でも確かに乙女ちゃんはドジっ子じゃないけどね」
「本当?」
「そうだよ! 乙女ちゃんは巨乳キャラさ!」
親指を立て、丘夏は出来るだけ爽やかな笑顔でその台詞を言ったつもりだったが、結果は右頬にビンタ一発だった。
ドジっ子である事は否定したというのに、何がいけなかったのだろうか。
「ま、間違えた。乙女ちゃんはドジっ子じゃなくて暴力系ヒロインだったね」
「……次は二発。右頬」
「待つんだ乙女ちゃん! そこは普通左頬じゃないの⁉︎」
既にやられた頬を狙うとは、冗談で言ったのに本当に乙女には暴力系ヒロインの才能があるのかもしれない。
「けど、本当にどうして? 私、ドジなんてしてない」
「……そうだね」
ナイトキャップの件は乙女の中では忘却の彼方なのだろうか。
ある意味凄い、と丘夏は驚く。
「やっぱり、何かやる度に失敗するのが原因……?」
「いや、それは何か違う──ぷっ」
石ころを蹴ろうとして、丘夏は口元を押さえる。
堪えろ、堪えろ、と丘夏は念じながら、我慢する。
我慢のしすぎで体が小刻みに震えた。
「……? 大丈夫?」
何かを必死に堪える丘夏を、何やら様子がおかしいと思ったのか、乙女は心配そうに訊ねてきた。
やがて丘夏は顔を上げ、ゴホンとわざとらしく咳払いした。
首を傾げる乙女に丘夏は震える手で足元を指差した。
「それも……最近のファッション?」
言われるままに自分の足元を見た乙女はボンッ、と音がなりそうなくらい急速に顔を赤くさせた。
乙女が履いていたのはサンダルだった。
乙女の全身がプルプルと震える。
堪えきれず、丘夏は腹を抱えて笑った。
「そ、そういうところじゃないかな……っ」
「気づいたなら早く言って……!」
再び赤面した乙女を見て、丘夏は御馳走様です、と手を合わせたのだった。