おっぱい様には勝てなかったよ……
引っ越し初日。
丘夏の男としての尊厳が崩れかけていた。
「男だよ! どこからどうみても男でしょ!?」
「体は女、心は男」
「そんなコ◯ン的な意味じゃない!」
「ウホッ?」
「そうだけど違う!」
極端過ぎる。どうしてライトグリ──この子は丘夏の事をイロモノ扱いしようとするんだろうか。
丘夏はごくごく一般的な男子高校生だというのに……。
大体、この子は何なんだろうか。いきなり人の性別を確認したりしてきて……まさか丘夏が女の子に見えていたりするんだろうか? そんなはずはない、と信じたい。丘夏だって立派な男とまでは言わなくても少なくても女の子には見えない外見をしているはずだ。
なんて事を考えていると、女の子が軽く頭を下げて言った。
「……ごめん。私、人の性別がよく分からなくて。最近になってようやく、チ◯コが生えているのが男、生えてないのが女だって分かるようにはなってきた」
「それならもっと別の判別の仕方を覚えようよ!? あと、女の子がチ◯コなんて言っちゃいけません!」
「股間の辺りに膨らみがなかったから、てっきり女だと……」
「ついてる! ついてるよご立派なモノが!」
「ご立派(笑)?」
「ついてる! ついてるよ小さいけどモノは!」
畜生! 自分でも分かってるんだよ小さい事は!
……あれ? 何か目から水が……。
頬を伝って流れ落ちる熱い何かを拭っていると、何を思ったのか女の子は自身の胸の辺りを叩き、柔らかなそれをぷるりと弾ませてみせた。
「……私は女」
「いや、知ってるよ!?」
「丘夏のよりも、立派」
「知ってるよ!」
男のモノとそれを比べるものじゃないだとか、女の子がそういう事をしちゃいけませんだとか、いきなり名前呼びですかだとか、他にも言いたい事はあるわけだけど、丘夏が次にここで言うべき台詞は……。
「ご馳走様です!」
パンッ、と手と手を合わせて丘夏はおっぱい様を拝んだ。
大変よろしいものでした! 眼福ッ!
「……?」
丘夏が何を言っているのか、よく分かってないのか首を傾げて疑問符を浮かべる女の子に少しだけ罪悪感。
この女の子は丘夏と同い年くらいの割には随分と無垢な性格らしかった。
こんなので悪い男に騙されたりしていないのだろうか。今、会ったばかりだというのについついそんな事を考えてしまう程、女の子は色々と無防備だった。特におっぱいとか、おっぱいとか。無防備なのはおっぱいだけのようだ。
だが、こうして間近で見るとやっぱりでかい……。
柔らかく大きく形がよく触れるなりたゆんと音をたててしまいそうなそんなおっぱいを見て、突如として揉みたくなる衝動に襲われるがぐっと堪える。
落ち着け。ここで胸なんて揉んでしまったら丘夏はただの性犯罪者だ。
引っ越し一日目で性犯罪者なんて親に顔向け出来ないぞ、鴻野山 丘夏……!
ちらりと女の子のおっぱいを見る。
もう揉みたいとは思わない。
……よし! 堪えた!
「……丘夏」
「ん? 何?」
「……どうして、私の胸を揉みしだいているの?」
自身の意思に反して欲望を抱いてしまった右手の代わりに丘夏は無言で土下座した。




