おっぱいがなければ即死だった……
穂花が救急箱を持ってくるという事で管理室に行き、丘夏は倒れた女の子の容態を確認をする事になった。
……倒れた女の子を起こすのは抵抗あるが、そうも言ってられない。
「おーい、大丈夫?」
ライトグリ──女の子の傍にしゃがみ込み、その体を揺り動かす。
しかし、女の子は気絶しているのか、ピクリとも動かない──なんて事はなく、しばらくしたらむくりと起き上がった。
丘夏はそこでようやくその子の容姿をはっきりと目にした。
ゆるく三つ編みにした長い碧色の髪は、うなじの上で巻き上げて留め、琥珀色に輝く瞳はここではない、どこか遠くを映しているさえした。何より目立つのは衣服がはち切れんばかりに存在を強調しているたわわなな胸部──ではなく、その顔立ち。見ていない。決して、凝視なんてしていない。
兎に角女の子には『綺麗』という言葉が霞んでしまんでしまうんじゃないかと思ってしまう程の美しさと気品があった。
そう、この時に使うのは『世界が違う』という言葉が適切なのではないだろうか。
多分そうだ。
「……」
そんな女の子が何故だか僕をじっと見つめている。しかも無言で。
正直居心地が悪い事この上ないけど、こうして目があってしまっては声をかけないわけにはいかない。
「あー……その、大丈夫?」
「……?」
女の子が首を微かに傾けた。そして、辺りをキョロキョロと見た後、
「何が?」
まったくもって不思議そうに訊ねてきた。
本気で言ってるんだろうか?
「何がって……たった今ライトグリ──君、階段から落ちたよね? 怪我とかしてないの?」
「してない。身体、丈夫だから」
「そうなの?」
見る限りでは確かに女の子は衣服が軽く汚れているこそ、傷らしき傷はそこまで見当たらない。
あの高さなら落ちてほぼ無傷って……身体が丈夫だとかそういうレベルじゃない。この子は全身が鉄でできていたりするんだろうか?
「まぁ、怪我をしてないならいいんだけど……一応、誰かに診てもらった方がいいよ。捻挫でもしてたら後に響くし」
「……」
「? どうした?」
またも女の子がじっと見つめてきた。しかも今度は丘夏の体を舐め回すようにジロジロと、だ。ドキマギして心臓に悪い事この上ない。
……何なんだこの子は。
「貴方の……名前は?」
と思ったら、突然名前を訊ねてきた。
少し戸惑ったが、名乗らない理由もなかった。
「僕は鴻野山丘夏。今日、このアパートに引っ越してきたんだ」
「鴻野山……丘夏……」
反芻するかのように女の子が丘夏の名前を呟く。
そして女の子が真っ直ぐな瞳で丘夏を捉え、至って真剣な表情で言った。
「……貴方は男? 女?」
「逆に聞くけど僕にバ◯ルの塔がそびえ立っていないように見えるの!?」
閑話2に続きます。




