新たな仲間?と進展
王座決定戦が終わってから数週間後、俺たちはやっと疲れも取れて授業を受けていた。
「次はリアさんの授業か」
「柊、まだ堅苦しい呼び方してんのか?」
「キラさん」
横にはキラが立っていた。
いつもキラはこの時間帯だと、ゲームセンターに行ってるか勅使河原のところへ訓練をしに行くのだが、今日はちゃんと勉強していたらしい。
「何か『さん』ってのは嫌だな。堅苦しいし、聞いてるこっちも変に思えてくる。これからは全員呼び捨てでいいんじゃないか?まぁ勅使河原さんを呼び捨てしたら問答無用で殺すがな」
「は、はい・・・」
「じゃあ、俺を呼んでみろ!」
「キラ!・・・さん」
「そう簡単に抜けるわけないだろ?キラ」
「ぐ、四津野」
四津野はキラの後ろから俺にフォローを入れると同時に、キラの脇腹に読んでいた教科書を刺した。
「キラも最初はそうだったじゃんか。まだ抜けてないみたいだしなー」
「ハハハ、何のことかな~」
「その頃のビデオ出してきてやろうか?『次の作戦は何ですか!リアさん!』ってな」
「や、やめてください、それは黒歴史です」
「敬語?堅苦しいねぇ」
四津野は相変わらず、キラを手玉にするのが得意のようだ。
「でも、キラの案もいいね。今日から敬語禁止令でも出すかい?」
「いいな。その案は」
そこに入ってきた図太い声の犯人は雷帝だった。やはり酒瓶はいつも通りの場所にある。
「チーム内敬語禁止令でも発令するか!オルガだって賛成だろうよ。なぁオルガ?」
オルガは本に栞を挟むとこちらを向く。まだ、頬にできた傷は治っていないらしい。
「賛成だ」
「それでは発令!『敬語禁止令』!!」
雷帝は両方の掌を合わせる。すると雷は天井を走り、電気でできた網のようなものを作った。
「これから敬語やさん付けをしたものには微弱な電流が静電気のごとく流れる。あのパチッとした電気で違反者をこらしめるってことだ。例えば・・・オルガさん、お昼は何を食べるのですか?」
次の瞬間、天井から雷帝に雷が落ちる。
「この通りな」
「いやいや、静電気なんてレベルじゃないですよ。あ、」
柊のツッコミにも関わらず雷が落ちる。
「大丈夫?」
「つーかルナいたら終わってたな」
「あの子いつも敬語だからね」
「ファ!?リア、いつの間に!」
今さっきまでいなかったはずのリアがまるで瞬間移動をしたかのように教室に現れ、雷帝の肩を叩く。
「敬語禁止令ってのはいいわ。でも、これはやり過ぎ。今すぐ結界を解きなさい」
「すまん・・・」
雷帝はまるで蜘蛛の巣でも取るかのように天井に張られた電気の網を引きちぎる。するとまるで雪のように網は粉々になった。
「それにもう、授業は始まってるわ。早く席に・・・ルナさんは?」
「それが休み時間になってからいないんです。どこいったのかわかりません」
「トイレじゃねぇの?女のトイレは色々と長ぇしよ」
「キラ、切られたいのか?」
四津野はキラの発言に横に置いてあった剣を抜く。
「まぁ保健室にでも行ったんじゃないのか?ルナはあれでも吸血鬼だ。日に強くても、長く当たっていればそれなりの現象は起こるだろう」
前にも話した通り、ルナの体は吸血鬼の中でも日光に強い物だが、別に他の種族に比べてなので日光が完全に無害というわけではない。あくまでも比べてなのだから。
「まぁ今日はルナさんのことを知るために、吸血鬼の話でもしようかしら・・・。要らないって人は特別に今日は突っ伏してもいいわ。知識の差ってことで」
吸血鬼で今のところ知られている種族は三種。
一つ目はルナさんのような日光に強い体質を持つ者。
二つ目は逆に日光をちょっと浴びただけで死んでしまうほど弱いが、体は強く、鋼のような筋肉を持つ者。
三つ目はほとんど吸血鬼らしい弱点はないけど、他の種族に比べて血を吸う量が多い者。
この三種が今のところ見つけられているわ。
それぞれに名前があるけど、それはまだ話さないわ。それに長いし・・・
そして三種の見分け方は目の色と筋肉のつき方よ。
色が赤に近いと第一種に近く、青に近いと第三種に近く、黒だと第二種が多いわ。筋肉は第二種が言った通り筋肉質な体をしていて、第一、三種はそんなに筋肉質ではないわ。その代わりに頭はいいわ。
まぁ他にも日光に当てるとか、プールや海に入れるといったものもあるけど、やり方によっては死んでしまう可能性もあるわ。ルナさんは第一種だから水は絶対ダメ。
リアが吸血鬼について話していると、教室の扉が開き、ルナが入ってきた。どうやら日光の浴びすぎで少し体の調子が悪かったようだ。
「すいません、ルナさん。少し体調悪いみたいなので、寮に戻ります。なので今日の授業は」
「わかったから早く帰って休みなさい。あ、それと柊君も帰っていいよ。今日はルナの看病が授業だわ」
「え、あ、はい!」
急なことで俺は少し驚く。
今、ルナに起こっていることは何か知らないまま、ルナの看病をすることになった俺はとりあえずリアからどうすればいいか聞く。
とりあえず日光を浴びさせないように寮まで運び、光の当たらない場所で看病すること、と言われた。
「お願いします、柊さん・・・」
顔を真っ赤にしたルナは病弱な自分の体を俺にあずけた。人でいう風邪のような症状なのか、少し咳をしていて、熱があるらしい。
「それでは失礼します」
俺は外に出るとルナの体を能力を使い、三つの尾で
巻く。
「温かい・・・」
この季節、この地区は避暑地と言ってもいいほどに寒くなる。日本の夏は他の季節と違い、一段と暑くなるがこの学校のある地区は全く違う。
とりあえず熱気を逃さないように、尾で巻くのが一番と考えた。
問題は学校から出たあとだ。
他の種族よりもルナは日光に強いらしいが、今の状態ではそんなこと言ってられないだろう。
俺は五つまでしか生やすことのできない尾を無理矢理生やすことで完全に日光を通さない屋根のようなものを作った。
「ありがと・・・柊・・・さん」
この二ヶ月間、俺はルナと同じ部屋で暮らしてきたが、ルナを心から可愛いと思ったことはあまりなかった。恋心など感じることはなかった。
こいつだってこんな可愛い顔するんだな・・・
寮に到着すると、リアの話を聞いていたのか千歳が外に出ていた。意外なことに少し驚いていた。
「とりあえず君達の部屋を片付けといたわ。なんで部屋があんなに散らかってんの?」
「たぶん散らかっていたとしたらルナの服とかじゃないですか?」
「そうだけどさ。同じ部屋の仲間ならそれくらい片付けてやりな。それにこんな状態じゃ片付けなんて無理でしょう?」
やはり千歳には敵わない。能力も、頭も、神経も。
だが、あの千歳が・・・ほぼ部屋から出ることのない千歳がこうやって外に出ている。
「とりあえず、ありがとうございますーとか何とか言ってさ。とっとと寮に帰った帰った!」
千歳は俺の背中を叩く。
そして、
「私がここまでやるのはリアに頼まれたからだ。君たちのイチャイチャは好きじゃない」
と俺の耳元で囁いた。その言葉と声にはどこか怒りの気が込められていた。
俺はその言葉を軽めに流すと、ありがとうございますと言い、寮の中に入った。
「さてと・・・続きでも書きますか」
千歳も俺らを追うように入っていった。
日の光にさらされた千歳の腕から、古傷は完全に消えて無くなっていた。
柊とルナがいなくなった後のチームOの教室は重要な作戦会議のような大きな会議が広げられていた。
それは夏の修学旅行の話だった。
Creatureの修学旅行は普通のものとは一味違う。
仲間を増やすことを目的としたものだ。
これまでの戦いによって出た傷を完全回復させるため、というのもあるが何よりも大事なのは新しいメンバーだった。
場所や新しいメンバーの名前は、チームのリーダーであるオルガによって発表された。
「今回の修学旅行、場所は日本のある山、氷兎山という場所だ。ある日を境にこの山は夏でも極寒の山になったらしい。山の麓にある村は完全に凍りつき、ジャーナリストやテレビのカメラ、登山家がそこにチャレンジするものの帰ってきたものは156人中、たったの三人だったという」
オルガの言葉にキラは
「そんなところに行っていいのか?」
と机に足を乗せて、まるで王様かのように言う。
「怯えているのか?」
「んなわけねぇよ。ただそんなところにいるのか?また去年みたいに行ってみたら死体を貪る『Lost』が住み着いてましたー、とか無ぇよな?」
去年の修学旅行は収穫なしで、むしろメンバーの何人かを殺してしまった最悪の事件になってしまったため、キラはそれを恐れていた。
「その帰ってきた三人がいい情報を記したんだ。三人によると、山の頂上付近に大きな洞窟があり、そこに一人の少女を見たと日記に記している」
「少女か・・・ルナのようなタイプか?」
「そこまではわからない。だが、その情報からその村の住民票やら何やらを引き出してきて、ある一人の少女を見つけ出したようだ・・・
名前は兎月 玲華。年齢は12。
医者によると産まれたときから人とは違う能力を持っていたらしい。
物を凍らせる能力。彼女の持つもの、哺乳瓶から衣服から色々と。あらゆるものを凍らしてしまったらしい。ちなみに小学生を卒業して、中学校に入学したものの、その能力によってすぐに退学させられた、と調べたら書かれていた。
「物を凍らせる・・・悪魔にもそんなやついたが、とんだヌケサクだったな」
「たぶん能力値だけでいったらキラや俺の能力値は遥かに上回るだろうな。話によると退学する前にプールの時間で、水面どころか水中までも凍らせ、プールサイドや柵にも凍った痕跡がついたらしい」
キラはそのあとの説明を聞くと、ヌケサクの話ができなくなった。
氷は外気によって水温が下がり、水面から凍り、氷を一定の厚さ割るか、溶かすとその下には水が現れるというのが普通だ。だが、彼女のやり方は水中から一気に凍らせたようだ。水中に潜った玲華は泳げない怒りから、能力が制御できなくなり、中から凍らせたらしい。そのとき、玲華は普通に氷の中から現れ、氷上に立ったようだ。
何が言いたいかというと、彼女が冷気を発し、水を凍らせたということだ。
「で、氷兎山へはいつ行くんだ?」
「それが・・・」
「明後日だ!」
「・・・おいおい、明後日とか・・・ったくよ」
「柊とルナには伝えておく。ルナの症状も治るだろう。治らなければ、何人か残して氷兎山に向かう」
いきなりの事にオルガ、リア以外の三人は驚く。
前までは夏休み入ってからだったようだが、今回は夏休み前に行くらしい。そしてここに帰ってくるのは来週のようだ。
「それでは、今日は解散。帰って修学旅行の用意をするように!」
リアはそう言うと、鼻唄を歌いながら教室をあとにした。
教室で修学旅行の日程が発表されたとき、俺は氷水の中にタオルを入れていた。
千歳には人間の風邪をひいたときの対応をすればいいと言われたが・・・本当に聞くのだろうか。
部屋はきれいになり、ルナの服は一ヶ所に集まり、未だ千歳によって作られたメイドによって畳まれていた。そしてメイドに近づくとメイド達は少し笑い仕事をし始める。その光景は少し不気味だった。
タオルを絞り、畳んでルナの額に置くと、どこか少し顔から曇りが消えたような感じがした。
「ありがとう・・・」
俺は千歳から貰ったリンゴを洗い、皮を剥き始める。
すると羽ばたく音と、黒い影がカーテンに写るのを見た。
俺はカーテンを少し開け、外の様子を見る。そこには入学当初に見たのが最後のルナの執事、アローがベランダに立っていた。俺は窓を開けると、アローは一礼して、静かに入ってきた。
「ルナお嬢様は大丈夫でしょうか?」
「今は安静に寝ています」
アローの言葉に一言返すと、アローはホッとしてその場に膝から崩れ落ちる。
「ルナお嬢様の身に何かあったと風の噂で聞きまして、大丈夫かと思い来てみましたら」
アローはそう言うと、ルナを持ち上げる。
「何を」
「ルナお嬢様は一度、帰らさせていただきます。これ以上の負担はルナお嬢様の身体に・・・」
「大丈夫よ・・・アロー」
「ルナお嬢様!」
ルナは額からタオルを取ると、アローの顔を叩き、下に降りる。まだ、顔は赤いが力はほぼ戻っているように見えた。
「ルナお嬢様、ここにいては身体に影響が」
「アロー、気遣いは嬉しいわ。でも・・・どんなに身体に影響があっても、私はあの家に帰りたくない!」
ルナは姿を変えると、俺に抱きついた。
「な!?」
「私は柊 海都君とここで、この部屋で暮らしたこの三ヶ月間がとても楽しかった!あんな監獄のような、囚人のような毎日はもううんざりなの!」
「じゃあ、お嬢様はこの人間と生涯を過ごしたいとおっしゃるのですか!あなたより貧弱でとても死にやすい人間と!」
「ええ!」
ルナは俺の顔を見ると、目を閉じ・・・
キスをした。
アローはその行動に唖然とし、言葉を出せなくなる。
メイドは俺たちを見て、手の動きを止める。
「これでどう?吸血鬼の中ではこの行為は恋人、そして結婚を表すわ!これで私たちは」
「もうやめてください!・・・わかりました」
アローは深く頭を下げると、一度も俺たちを見ることなく部屋から出ていった。羽ばたく音が遠くなっていくのを俺たちは知った。
「ルナ、どうして」
「どうして?私は柊君、いや、海都と一緒にこの世界で暮らしていきたいの。この三ヶ月間、この学校に来てたくさんのことを知った。知ったことはパパやママから聞いた話とは全然違うものだった。この世界の人はとても弱いもので、とても最悪なものと聞いていた。でもそれは違う、中にはそんな悪い人もいたけど、海都のような私たちを助けてくれる、優しい人もいるってことを・・・」
ルナは少しよろけると、倒れてしまう。とても負担をかけてしまったらしい。
「どんなに暮らしたくても、体を壊したら夢は叶わないから、今は安静に寝て、身体を休めて」
「ありがとう・・・」
出発の朝、ルナはやっと回復し、急いで準備をすると、俺たちは玄関の扉を壊すくらいの勢いで、外に出た。
「ルナ、もう大丈夫か?」
玄関の先には、普通こんなところにいるはずのない四津野が立っていた。
「はい、もう大丈夫です!」
ルナは元気よく、四津野に返事する。
「それじゃあ、もうすぐ出発しなきゃだから急ぐよ!」
俺たちは修学旅行がこんなにも過酷なものだということを初めて知るのだった。