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19 黄泉へ

 目もくらむ光はまたたくまに広がり、そこにいたアゲハも獣も覆い尽くし、第一の結界まで広がって、ぴたりと止まった。

光の柱は太い一本の滝となってごうごうと天に向かってのぼっている。

 と、いきなり姫夜はその激しい光のなかに飛び込んで見えなくなった。


「姫夜――っ!」


 我に返った兵士たちが後を追ってその光に飛び込もうとしたが、みな雷に打たれたように、はじき返された。


「くそっ、どうすれば!」


 背後から那智の叫ぶ声がした。


「ハバキさま、神剣を――」


 那智の半身は血にそまり、左手は折れたのか、だらりと垂れ下がっている。

 ハバキは抜きはなった剣を両手にかまえ、力一杯光の柱に突き立てた。

 その瞬間、目を覆うほどの光がはじけて、消え失せた。

 ようやく、ハバキの目があたりの闇になれたとき、その目に飛び込んできたのは、磐座の柱の前で、姫夜と対峙している異形の神の姿だった。

 風になびく長い黒髪。ほっそりした姿。それは、ある意味、姫夜の姿に酷似していると云えたかもしれぬ。

 だが、その姫夜によく似た神々しいまでのおもざしの左半分は焼けただれたように崩れ、眼窩がんかには黒々とした穴が穿うがたれていた。大きな袖がはためいているが、左腕は肉が腐り落ちて白骨と化し、ぞわぞわと音を立てて、無数の足を持った長虫が、そのからだのうえを這いずり回っていた。だがたしかにそれは神であった。

 妖獣はその足もとにすりより、ケガレ神の左の手をぺろぺろと舐めた。


「わああああっ」

「ケガレ神め――妖しめ!」


 弓矢隊が狂ったような雄叫びをあげて、火矢を放った。

 その瞬間、姫夜がキッと振り向いて、ひれで払った。すると空を埋め尽くすほどの火矢も、ことごとく二人のからだに触れる前にはらはらと燃え落ちてしまった。


「なぜだ」


 ハバキは叫んだ。

 姫夜は恍惚とした表情で、ゆっくりとその神にむかって手を差しのべた。

 兄上――姫夜の唇がそう動いた。ハバキは愕然とした。


「弓を――ッ」


 ハバキは倒れていた兵士の弓を奪い取って、矢をつがえ、ぎりぎりと引き絞った。するとケガレ神はすっと目を細め、かろくなにかを投げつけるような仕草をした。その手から、長い光の尾を引いて、三つの獣が走った。白い狼がかっと口を開いてハバキの喉笛に食らいつこうとした。その瞬間、姫夜がふりかえって、手首の玉を狼に投げつけた。玉は狼のまなこにあたり、狼は悲鳴をあげて、横に逸れた。

 他の獣たちも立ちふさがるものの首を食いちぎって、ヤギラが破った結界の破れ目から、外へと流星のように飛んだ。


「ケガレが溢れたぞ! のろしを――砦に知らせを――っ!!」


 小楯が狂ったように腕をふりまわして叫んでいる。

 毒気にあてられたように兵士たちがばたばたと倒れた。

 ケガレ神は微笑むように唇をつりあげ、ゆらりと一歩、姫夜に近づいた。黒い眼窩の穴からぼろぼろと蠱がこぼれ落ちた。

 姫夜に触るな――

 ハバキは剣をつかんだまま叫ぼうとしたが、声は音にならなかった。体が大地に縫い止められてしまったように動かない。

 ハバキと残ったものたちが凝視している前で、姫夜は吸い寄せられるように進みでて、伊夜彦のからだを抱きしめた。

 その瞬間、伊夜彦と姫夜の姿はかき消えた。ヤギラも消えていた。


「くっ――」


 行ってしまうことはわかっていた。

 ハバキは膝をつき、二人が立っていたはずの大地を激しく拳で叩いた。

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