第二章 眩 1
第二章 眩
それはあるのか。
アッシュは今も自問する。
冒険の目的とは。
40は自分の技を磨くため、また見知らぬ宝にめぐり会うためだと言ったことがある。
技を磨くためはともかく、見知らぬ宝にめぐり会うことに何の意味があるのか、とアッシュは聞いた。40は、シーフの身として他の者がもっていない、見たことがない宝にめぐり会うこと、手に入れることはそれだけで名誉なことなのだと言った。またえてしてそういうものには、職人肌をくすぐらせるほどの高度な罠が仕掛けられてい、その中に眠っているものは命をかけただけの価値があるのだとも言った。
ティスは、と聞くと、神の御技を知るためとそっけない。しかし、プリーストのティスにとって、それ以上の答えがあるとも思えなかった。財宝は二次的なものに過ぎないのだ。
お前はどうなんだ、と40に聞かれアッシュは口をつぐんだ。二人の目的を思うとき、アッシュは深く思い悩むのが常だった。
薄明かりの酒場の一角に三人は座っていた。
店の中に客は少なくなかったが、大声で話したり、笑ったりしている者はいない。多くの街で見かける陽気で騒ぐような酒場ではないようだった。人々の血も後悔も染み込んだように、壁も机も全てが黒ずんでいる。
「前に聞かれた話だが」
そう言ってアッシュは話始めた。アッシュが自分から話すことなど珍しい。二人は心持ち驚いたようだった。
それは、アッシュの心の底を掘り起こすような作業だった。
「俺が人並みの冒険者になった頃だ。おれはよくそいつと組んでいた。そいつは俺とは正反対のような奴だった。色白の細身の体、女にすら見える整った顔立ち、長い金色の髪、友好的で誰とでも話し、剣よりも魔術をよく使う奴だった。バート、バート=リュリー。それが奴の名前だった」
「バート!バート=リュリーって、人食いバートのバートか?アッシュ、おまえ奴と組んでいたのか」
40が体を震わせ声を上げた。人食いバートと言えば女子供問わず殺害し、その生き血を飲んでいたと言われる、一つの事件だった。
そうだ、とアッシュはゆっくり頷いた。
「バートは魔術だけでなく、剣技も冴えていた。天性の資質と言うのは、確かにあるのかも知れない。俺と組んだ頃、奴はまだ駆け出しの冒険者だったが、魔法剣士としての類い希なその資質をすでに見せていた。魔法剣士は、男には女の魔法修得の特性を、女には男の強い筋肉を要求する。努力だけではどうしようもない絶対的な資質が必要だ。奴にはその資質があった。いつもの様に酒場で飲んでいた時だった。バートは俺に言った。『アッシュ、剣は確かに素晴らしい力だ。しかし魔法はその剣の力を上回ることがある。魔法もまた素晴らしい力なのだ。私はこの二つをいつか極めてみせる。必ず、極めてみせる』。魔法と剣を極めるといえば、この国でも希な種族エルフだ。人の5倍以上もの寿命を持ち、魔法に優れ、剣の腕も立つ神に近い幻の種族。奴にはそんな考えもあったのかも知れない。天才と呼ばれるに相応しく、奴はめざましい成長を遂げていった。




