亜と人の出会い
人は亜人を恐れ、科学の力で彼らを殺戮していった。
それに対し亜人は魔法という不思議な力で人を殺していった。
「死ね・・・クズ共がぁッ!!」
鋭い爪を掻き立て敵を切り裂く。白い巨体の亜人の周りにはたくさんの死体で覆われていた。
長身で巨体の狼のような姿ながら、二足歩行で歩く亜人。白く美しい毛に覆われた彼らは百狼族。その力は亜人の中でもかなりの上位に入る程。だが彼の体の一部には黒い模様がある。
彼は百狼族の神童、ガルダ。その力は余りにも恐ろしく、同じ百狼族ですら恐る程。だが、そんな彼でもーーー。
「化物が・・・!各員、対亜人特殊弾、目標・・・百狼族!」
何発もの銃弾が体に撃ち込まれる。
「グフっ・・・・」
口から大量の血を吹き出す。体から力が抜けその場で崩れ落ちる。だが。
「まだだ・・・まだ終わらねぇえええええ!」
足に全力の力を込め、目の前の敵に的を定め全力で飛び込む。口を大きくあけながら。
ずちゃっごキャッパキッごりっ・・・全てを食らいつくす。
地面に勢いよく滑り込む。体の一部が擦りむく。彼は意識が朦朧の状態だった。このまま死を待つだけだった。亜人の掟にもある。静かに死を受け入れろ、と・・・いや、今は戦争中だ。掟は適用されまい・・・。
彼はそのまま目を閉じ、落ち着いた気持ちで死を受け入れようとしていたーーー。
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「九滝くん、君を最前線に派遣する事になった。」
「え・・・?」
私の頭に数ヶ月前の事が頭によぎる。亜人が現れ、戦争が始まった。何人もの人が死に、何人もの亜人が死んだ。
「で、ですが私は・・・!」
「人数が足りないらしいんだ。私自信もいずれ最前線に行くことになるだろう。」
「・・・。」
「なに、最前線と言っても距離はかなり離れている。派遣された看護師や医師は誰も死亡していない。だが、怪我人が多すぎる。」
「分かりました・・・九滝 美弥、頑張ります!」
「あぁ、気をつけくれ。」
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「とは言ったけど・・・。」
私は目の前の惨状に立ち尽くすしか出来なかった。私は医師として、5年間頑張ってきたが、ここまで酷い状況とは・・・。
「九滝先生、南病棟をよろしくお願いします。」
この病棟の全てを任せれている石森先生である。凄腕で有名な人だ。
「わ、分かりました。」
私は動揺したまま、言われた通り南病棟へ向かおうとしたその時、一人の看護師が息を切らして入ってきた。
「大変です!右翼部隊、斎藤隊長の部隊の全滅を確認!」
「全滅!?本当にか!?」
「あ、いえ・・・ですが、百狼族と思われる亜人によって・・・皆さんは・・・。」
「百狼族!?かなり危険ではないか!」
「ですが、百狼族の亜人も瀕死の状態です!今ならまだ助けられる人も・・・!」
「だが・・・!クソ、最悪だ!」
周囲は困惑と葛藤に満ちていた。医師として、看護師として、人を救いたい。だが、自分も巻き込まれれば元も子もない。何より危険な亜人、百狼族がいる。瀕死とはいえ、まだ戦う力も残されている可能性もある。
「なら、私が行きます!」
自分でも何故名乗り出たのか分からない。死ぬかもしれない、怖い。だけど、救いたい。という気持ちが私をそうさせたのだろうか。
「ですが九滝先生・・・!」
石森先生は顔を歪め私を見る。
「お願いです!」
私はただ、一人の医師として彼らを救いたい。それだけだ。
「・・・わかった。くれぐれも気をつけてくれ。」
「はい!」
「では宮城君、九滝先生に斎藤隊長らの場所を教えてくれ。」
「先生、北病棟の守矢さんが!」
「わかった。すぐ行く・・・気をつけてくれ。」
石森先生はそう言い残し、北病棟へ急ぎ足で向かった。
「では九滝先生、斎藤隊長達の場所を・・・ここから森を南へ真っ直ぐ進んでください、暫くすると荒野に抜けます。そこに・・・」
「分かりました。急いで向かいます!」
私は救急用具が入ったバッグを手に取り、急いで言われた方へ走り出す。
走って30分くらいだろうか。森を抜けると殺風景な荒野が広がっていた。
「酷い・・・。」
亜人と人の死体が無残にも転がっており、見ているだけで精神がおかしくなりそうである。そして彼女はすぐある物に目が入った。
「あれが・・・百狼族・・・」
ゆうに3mはあるだろうという巨体の狼型の亜人が倒れていた。そしてその周囲におそらく斎藤隊長の隊員の死体が転がっていた。
「うぅ・・・。」
隊長と思しき人物がうめき声を出す。私は声がした方へ急ぎ、救急用バッグから用具を取り出す。
「大丈夫ですか!?今すぐ治療を・・・。」
出血が酷い。急いで止血をして、治療する。足はえぐられており、鋭い何かで切り裂かれたと推測できる。
「他に、他にまだ・・・!」
周囲を見渡すが彼以外に生存を確認できる人がいない。理由は簡単だ。全員胴体と下半身が真っ二つに切り裂かれているからだ。
だが、まだ生存を確認できる人がいる・・・人は人でも・・・
「グゥァ・・・・・・。」
亜人だ。亜人の彼がまだ助かる可能性はある。だけど、助ければ殺されるかもしれない。第一、敵である。私にはメリットも・・・
いや、私は医者だ。例えそれが人と違っても、敵であろうとも。
「い、今助け・・ます!」
急いで亜人の下に駆け寄り、止血をする。すると。
「人・・・間・・・余計なことをするな・・・殺すぞ・・・。」
彼が私に話掛けてくる。その声は余りにも弱弱しく、かなり衰弱している状態だとわかる。
「だったら、殺してみればいいじゃないですか!あぁもう、出血が酷い・・・!」
「・・・。」
パキンっ
私が特に出血が酷い胸元の傷口を止血しようとすると傷口が一瞬光に包まれる。まぶしさに目を瞑り、また目を開けると出血が止まるどころか傷一つ無かった。
「あ、あれ?あれ?確かに血が・・・。」
「これで・・・大丈夫・・か・・・畜生・・もう魔力が足りねぇ・・。」
亜人の彼がこの傷を自ら塞いだことに驚くが、他にも出血が酷く私は急いで治療をする。
「よ、よし・・・これで良いよね・・・?」
「・・・ッ」
亜人の彼が目を覚まし体を起こそうとする彼を私は急いで寝かそうと押し倒す。
「駄目です!今は寝ててください!」
「いや、俺はもういい・・・おい人間、何で俺を助けた・・・今の俺にはまだお前を殺す力も残っているかもしれんぞ・・。」
「私は医者です、敵も味方も関係ありません!怪我していれば助けるのが当然です!」
「・・・フゥ。」
ため息をつけ、無理やり体を起こす。
「キャアッ!?」
私は体を起こした彼の膝に乗る。
「まぁ、命を助けられたんだ。俺を好きにしろ。殺してもいいしソコの人間を助けてもいい。」
「た、助けられるんですか!?・・・じゃあお願いします・・。」
「おいおい、医者なら自分で助けろ・・・まぁ、その願い、聞き入れた。」
彼は斎藤隊長に手をかざし、また先ほどの不思議な光を放つ。すると切り裂かれたはずの足が再生していた。
「さぁ、後は何をする?言っとくが死んだ奴は助けられんぞ・・・。」
「・・・じゃあ、逃げてください。」
「は?」
私の言葉に頭がおかしいのか?という顔で私を見る亜人。その顔にムッとくる。
「逃げてください!っと、言ってるんです!」
「・・・ハハハハ!こりゃ傑作だ人間、ククク・・・。」
腹を抑えて笑い出す亜人。よくこんな状況で笑っていられるものだ。
「お前ら人間は殺しにかかってきたと思えば今度は助けて最終的には逃げろと言う・・・クククク・・。」
「それは貴方だって同じです!私を殺さなかったじゃないですか!」
「ククク・・・そうだな・・・それもそうだ。」
笑いも収まってきたと思うと彼は耳に手を当て、不思議な言葉を話していた。
「よし・・・人間よ、名前は?」
「九滝・・・九滝 美弥です。」
「ミヤか・・・よしミヤ、お前の願いを最後に聞こう。」
「お願い?」
「あぁ、助けられたこの命、死んだ筈の命だ。これからさき自分自信で歩む権利もない。お前が死を望めば俺は死ぬし、お前に力を与えることもできる・・・さぁ、どうする?」
「ならば・・・。」
私は息を飲み、彼に゛お願い゛を言った。
「貴方も人を、亜人を救う医者になってください。そして、誰1人共傷つけないでください。」
「・・・わかった。この契、必ず我が生涯尽きるまで守ると誓おう。」
彼はゆっくり立ち上がりその場を立ち去ろうとする。
「あぁ、ミヤ。この戦争は終わった。」
「ふぇ?」
余りに唐突なことに私は声を出す。
「亜人の代表と人間の代表が和解した。さぁ、早めに戻れ。」
「は、はい!」
「じゃあな、ミヤ。また会えることがあればゆっくり話でもしよう・・・。」
そう言って彼は荒野の崖から飛び降りた。私は呆然と見ていたが急いで病棟へ連絡する。
暫くして、和解の知らせがきた。この戦争で相当な被害が出たが、私達は生きていられているということの感動を実感した。