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each story  作者: 流雨
7/7

コンビニ 2

明日ならもしかすると、シフトが違ってあの美人さんじゃなくて他の店員さんかもしれない。オレがこの店に何回かいった時は、いつもそこそこイケメンなお兄さんがカウンターだった。あの人になら、まだ引かれても立ち直れる。

そんな事を目論んで悪友に頼んでみるが、

「無・理」

語尾に星マークが付きそうな位に楽しそうな口調できっぱり言われた。やっぱりか。

でも却下されるのは予想出来たから、まだ食い下がる。

「本当マジで頼むよ。肉まん買ってきてやるからさ!また明日で!な?」

「このクソ暑い時に肉まんかよ」

「じゃあアイス!スーパーカップバニラ味!」

「俺は爽の方が好きなんだけど」

「じゃあ爽奢るから…」

「でも無理」

「何でだよ!」

「お前があの人にドン引きされる所が見たいからだ」


言い切ったー!こいつ言い切っちゃったよ!しかもかなりのどや顔で。

「自分が負けるっていうリスクがあったけどな。お前、ああいう感じの年上好きだろ?」


しかもバレてるー!オレの好みバレてるー!


オレがショックで口を金魚みたいにパクパクさせてると、友人はニヤリと人の悪い笑みを浮かべて、

「せいぜいタイプの子にドン引きされて、片思い爆発しろってことだ」

「………」

つまりアレか、お前は今日このコンビニにあの人が居るって事も知ってて、オレがあの人が好みだって事も知ってて、さらに自分が負けるリスクを背負ってまで罰ゲームをオレにさせたかったのか!どんだけ片思い爆発させたいんだよ!


「俺の中で片思い=青春=リア充なんだよ。だから片思いの内からフラグを折ってやろうと思ってな」

「それただの僻みじゃねえか…」

「そ、ただの僻み。俺様の周りで青春してる奴はみんな滅びれば良いんだ!」

おいおい。


「つーか、別にあの人の事好きって訳じゃねえからな?タイプってだけで」

「でも今のままだったら絶対好きになるだろ?」

うーん…可能性は無い事もないけど。オレは彼女居ない歴=年齢の恋愛経験ゼロの奴だし、そもそも女子と話した事がほぼ無い。

あるって言えば母親と先生と、クラスで隣の席の子との「消しゴム落としたよ」「あ、ごめんありがとう」くらいだ。あとは従姉妹がちょろっとだけど、オレ自体あの無表情で何考えてるか解らないあの子が苦手だから喋らない。幸子は小6の癖に大人びすぎてるんだよな。

ともかく、そんなオレがもしバリバリタイプのあのお姉さんと会話なんてすれば(会話できるとすれば)、多分…いや絶対好きになるだろう。まだ会話した事もないけど、何か直感で解る。分かってしまう。


もう一回、お姉さんの(オレ的美人な)横顔を盗み見る。


「そういえばあの人、今日初めて見るけど。オレが来てない内に新しく入った新人さんかな?」

「つべこべ言ってないで…さっさと行けや!」

「うおわっ」

ついに痺れを切らした友人に背中を思いっきり蹴飛ばされて、ドアの前に出て来てしまった。嘘だろ…ってオレがしばし呆然としている間に、ウィーン。律儀な自動ドアがオレを認知して左右に開いた。いや開かなくていいから!むしろ開いて欲しくなかった!


だか時既に遅し。開いた自動ドアの向こうには、蹴飛ばされて前のめりになった中腰の姿勢で固まるオレを見て「いらっしゃいませー」と言う店員さん。くっ笑顔が眩しいぜ!


まさかドアの前に立って、今更何事も無かったかの様に立ち去る訳にもいかない。何より、あの人に歓迎されたのだ!いらっしゃいませって素敵な笑顔で言われたのだ!入らないわけがない!


自分は壁の影という安全地帯に隠れたままの友人を「てめー足で蹴るなよ!」と「でもお陰であの人に話しかけられた!」っていうメッセージを込めて睨むと、ん?口をなにやらパクパクさせてる。


あ、う、え、い、う…罰ゲーム?

「罰ゲームはちゃんとやれよ」


…くそ!分かったよやりゃあ良いんだろやりゃあ!


オレは半分ヤケになってやってやったさ。さっきまであんなに嫌がってたのに、あの人の笑顔を見てテンション上がっちゃったんだよ。もうどうにでもなれってね。


オレは全速力で走って来た風を装って、肩で激しく息をしながら(ただ単に肩を上下させてはーはー言ってただけだけど)コンビニに駆け込む。

んで、一旦立ち止まって入り口あたりを振り返り、まだ整わない息で言ってやった。


「ふう…危なかった。ここまでくればもう大丈夫だろう」


キター!お前どこのDQNだよ!しかも自分で言うのもなんだけどかなりカッコ良く言えたし!最初に言う予定だったセリフとちょっと違うけど、マジで敵に追われてた主人公っぽいぞ!聞いてたか友人よ!オレはやったぞ!やってやったぞー!


やってみれば案外簡単に出来るものだ。本当にノリって怖い。


「あ、あの」

恐る恐るお姉さんが話し掛けてきた。オレは笑顔で振り向く。


……うん、やっぱりね。ドン引きしてるよ。お姉さんの整った顔に、「こいつ何してんの?バカなの?死ぬの?」って書いてある。


しかし!タイプの人に話し掛けられてテンションほぼマックスの今のオレには、そんな彼女の表情を見てもあんまりダメージは受けない!

例え悪友の狙い通り、これでオレとこの人のフラグが折られていたとしても!


「だ、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫ですよ」

オレは爽やかな笑顔(多分)で答える。因みにマンガを立ち読みしてたおっさんは、マンガに夢中で気付かなかったのかノーリアクションだった。


…どうでも良くない事だけど、正面から見るとやっぱりオレ的美人だな。惚れちゃったよ。声も可愛いし。


「まあ、頭の方は大丈夫じゃないかもしれませんが」

眉を下げて心配そうな顔をする店員さんにそう言うと、おお、笑ってくれた。ちょっと受けた様だ。

「あ、すみません」

お客に対して失礼だと思ったのか慌てて頭を下げられたので、ブンブン手を横に振る。

「いえ、こちらこそ変な事言ってすみませんね。ちょっと罰ゲームをさせられまして」

「そうだったんですか」

驚いた顔ですら愛嬌がある。

「まあ気にしないでください。気の迷いです」

「はあ…すみません」

最後に会釈して、店員さんはレジに戻って行った。


オレも平静を装って店から出た。何か買って行った方が良いかなって思ったけど、これ以上あの店員さんと顔を合わせると、絶対ニヤける自信があるので早々に退散した。


すぐそこで待っていた友人にスキップしながら駆け寄る。

「っほーい!やべえ喋っちゃったよ!笑ってくれたよ!」

「影から見てたぜ…なんであの店員さん引かないんだ?」

もはや忌々しげに吐き捨てた友人は、腹の立つニヤニヤ笑いから一転、すっごい納得いかなさそうな顔をしていた。


「お前の青春フラグをへし折ってやる予定だったのに…逆効果じゃないか」


そっか、オレがあの人に嫌われるようにする為の罰ゲームだったんだから、逆に良い方向(なのか?)に進んだらこいつ的には面白く無いよな。つーか今聞いたらめちゃくちゃ理不尽だわこの罰ゲーム。


まあいっか。結果オーライだ!進展したとは到底思えないし後退したとも思えない。でも話が出来ただけで幸せだ!ほんの二言、三言だけだったけど。


「サンキューな親友!お前マジ良い奴だわ!」

オレが友人の肩を叩くと、バシッと良い音がした。力の加減を間違えた様だ。

「いてっ」

「あーメンゴメンゴ」

軽い口調で謝ったら、溜息を吐かれた。

「お前さあ、何でそんなに喜んでんの?最初は『そんなに好きじゃない〜』とか言ってなかったっけ」


恨めしそうな友人に、答える。この世で一番幸せそうに緩んでいるであろう顔で。

「ああ、さっき一目惚れした。実際に話してから、もう惚れちゃったね!」


「くっそ…リア充予備軍爆発しやがれ!」


星空の下、とあるコンビニの駐車場に友人の叫び声が虚しく響いた。

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