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each story  作者: 流雨
4/7

わたしの日常 3

一人称は地味に疲れる時もあるんですね…というどうでもいい前書きがありまして。

「お買い上げの商品、忘れてますよー」

右手の袋をガサガサ揺らして主張する店員さん。


しまった、買ったチロルチョコを受け取るのを忘れていた。自分で言うのも何だが冷静なわたしが珍しく動揺か?普通の人がこの局面に出くわした時に感じる恥ずかしいの三分の一くらい恥ずかしい。

そして顔はもうこれ以上赤くはならない。


「すみません」

無表情には変わりないだろう顔で大きめの声を出す。聞こえていただろうか。

わたしは四角錐台の三十五円を受け取ろうとマイ自転車から降り、スタンドをかけて「あ、待っといて下さい。僕がそっち行きますんで」言われた通りに待機する。

右手を下ろして、こちらに走って来る店員さん。道路を渡ろうとして足を踏み出し、


彼の姿が軽自動車に遮られた。


手加減なしの全速力、軽とは思えないふてぶてしいクラクションプラス全力疾走。あ、車、とわたしが思った次の瞬間には車は通り過ぎて、尻餅をついた店員さんがまた向かい側に現れた。


転けた。大丈夫か?と視認して、目を見張る。今までの顔に回っていた余分な血が全部引いた気がした。


予想外の…非日常


普通の呼吸より一度に多めに息を吸い込んで、それを吐き出さずにエネルギーに変えて駆け寄る。

血が。足から。さっき轢かれたのか。店員さんいつもの緩んだ笑顔は消えて、苦しそうに歪められている。「っつー」脛から止めどなく流れる血の量の割には軽い痛がり方だ。


既に紺色だったズボンは紅色に染まり、血は次のターゲットの灰色の地面を赤黒く彩り始めている。その血に対しがんばれと応援する気にはもちろんなれない。


「大丈夫ですか」

地面に膝を付けて膝立ちする。一応怪我を心配して足に手を添えようとするが、触ったら痛いかと考え直して微妙な位置で静止させてしまう。

「あてて…ま、まあ大丈夫ですよ」

袋を持っていない方の手の平をわたしにむけて「NO」もしくは「YES」の表現をする店員さんはやはり軽い。

「ですが」

「ちょっと車と接触しただけですよ。そんなに酷くないですから」

…大丈夫か?本人が言うのだから。

わたしは膝を浮かせ、しゃがんで店員さんの顔を覗き込んだ。

「そうですか」

「そうですねー」

「歩けますか?」

「何とか?無理かも?」

「死にそうですか?」

「いや別に」

轢かれたのに平然と言う。何も変わらない日常の様に。さっき交わしたごく短い会話と同じく様に。非日常じゃなくて、日常の中の異常くらいか。わたしは何故かがっかりした。


「じゃあコンビニの袋、頂きますね」

「ああー、すみません」

血で汚れちゃったかも、と眉を苦痛に歪めながらも口角を上げて苦笑する。わたしはそれを受け取った。

じゃあ、と立ち上がって道路を渡る。

と、忘れてた。道路の真ん中で立ち止まって、「有難うございます」

店員さんに向ってお礼を言うと、

「いえーあててー」

呑気な答えが返って来た。本当に、思ったより重傷ではなさそうだ。このまま放って置いても自分で何とか出来そう…では無い。

流石にその足では立ち上がる事は出来なさそうだ。

「コンビニに連絡しますか」

「誰もいませんよ、今は」

「店長どこ行ったんですか?」

「今日は休み、というか休むらしくて」

何してやがる。というか今はコンビニには

あのおじさんしかいない訳だ。商品盗られたらどうするつもりだろう。それはいいとして、


「じゃあ救急車を?」

わたしはスカートのポケットからガラケーを取り出す。救急車は119番だったか。

「あーうーんははー。お願いします」

少し迷って、恥ずかしそうに笑ってお願いされた。いつもと変わらないふにゃっとした笑顔で。


パカっと人差し指で携帯を開いてボタンを押す。コールは五回。職務怠慢で同僚に通報されそうな声が出る。あーすみません人が車に轢かれて怪我しました。ええ。はい。男性です。場所は何処でしょうね。何処ですか?


適当な受け答えを繰り返しながら、わたしは一人でに笑っていた。


日常に飽きていただけだ。変わらない日々に、何か少しでも変化があればいいなと漠然と思っていた。何故か笑えて来るのだ。今日はいつもと違いすぎて。


「連絡取れましたよ。あと十分ほどで到着するそうです」

パコンと用済みの携帯を閉じて仕舞い、尻餅をついて待機中の彼に報告すると、「ありがとうございます」折角下がった血液がまた昇ってきた。

「いえ。元々わたしがこれを忘れたのが原因ですし、貴方に怪我を負わせてしまった事に少し責任を感じているので」

わたしにしては早口の長広舌を振るった。そう、そもそもわたしがコンビニの袋を取り忘れなければ店員さんが外に出て来る事は無かった。これはわたしにも責任がある。だからまだ放置した自転車に戻るのは辞めておこう。


店長さんの足から流れる血は既に止まりつつある。代わりに空から、雨が始まりそうだ。

まだしつこく続けますよーという後書きに終ります。

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