第六十話 第三者の存在
この家は僕の携帯だと微妙に電波外のようで、わざわざ外に出て少し離れた位置まで行く必要があった。
僕は修二君と橘さんに連絡を入れようと電話をかけてみた。
修二君は通話中、橘さんは電波の届かない場所にいるようで、二人ともに連絡は取れなかった。
仕方なしにすぐ部屋に戻るとなぜか鍵がかかっていた。
幸い僕は貴重品はいつでも持ち歩くくせがあるため鍵は開けられたが・・・・・・。
僕は間違いなく鍵はかけていなかった。
どういう事なのか。
単純明快だ。
僕以外の”誰か”が鍵をかけたとしか考えられない。
現状で一番可能性が高いのはたった数分で目を覚ました祐二君が誰も近づけまいとして鍵をかけたか・・・。
もしくは第三者の可能性。
これは一番怖いな。何者かが僕がいなくなった隙にこの部屋に入り鍵をかけた・・・。
ひとまず臆してても何も始まらないので、様子を見つつ中に入る。
「・・・おかしいな。たしか鍵はかけずに出たはずだと思ったが。」
中に不審者がいないかどうかの確認の為もあって、僕は無駄な独り言を言ってみる。
とりあえず周囲から特に目立つ反応はなかった。
祐二君もどうやらぐっすり眠っているようだ。
・・・・・・これは誰かいるな。
僕は間違いなく誰かがこの部屋にいると確信した。
それはなぜか?
答えは明白だ。
鍵を持たない第三者がこの部屋に鍵をかけるには内側からしか方法はない。
かつ僕が戻るまでの短時間でその第三者がこの部屋から消えたように見せるには、当然どこかに隠れる他ない。
それに気になる疑問点のうち次がもっとも重要で危険だ。
それは・・・・・・。
祐二君が内ポケットに潜ませていたハズの拳銃がないからだ。
それは間違いなくこの部屋に来たであろう第三者が持ち去ったに違いないからだ。
念の為に不審者がいないかどうか部屋を全て調べてみてもいいが・・・・・・そこで何者かと遭遇し、ここで問題を起こしても僕に利益はなさそうだ。
相手は祐二君から奪い取った拳銃を持っている。
ここで争いになっても勝ち目は薄いと判断した。
とりあえず背後から急に襲われる可能性を危惧して、背中を守るように壁にもたれて座る。
さて、困ったな。
ここには僕と眠っている祐二君、そしてその祐二君から奪い取った拳銃を持った謎の第三者。
・・・・・・ふぅ。しばらくここから動けそうもないな。
今はその第三者もおとなしく僕の行動を見ているに違いないだろう。
ちょっと考察してみようか。
まず僕の家に入ったやつがただの強盗だった場合。
眠っている謎の人間が持つ銃を奪い金目の物を奪って去ろうとしたら、僕が戻ってくるのが見えてあわてて鍵をかけ身を潜めた。
・・・・・・まぁこれはないか。金目の物が目的だったなら窓でも割って逃げればいいだけの話。わざわざ隠れる必要がないか。
次に僕の知り合いの場合。
ここを知っている知り合いは会社仲間数名に、服部 修二君くらいなものだ。
一番今回の件で可能性があるのは服部 修二君が潜んでいるパターンだが、彼だったとするならば何故僕から隠れる必要がある?
・・・・・・まぁもしかしたら僕の最近の不審な行動や、彼の知らない事を知ってる僕に対して若干敵意を抱いているのかもしれないが。
しかしこれもないな。
なぜならもしもこの家に隠れているならば、僕が彼の携帯電話へ連絡を入れた時に通話中になる前に”電波の届かない場所にいるか、電源が入っていない為、つながりません”のメッセージが聞こえるはずだ。
という事はつまりこの家の中ではない、どこかで電話中という事だ。
次に僕の知り合いでこの家を知らないと思われる人物の場合。
ちょっと不思議だがこれは案外想像がついた。
僕の知り合いでありながらもこの家を知らない人物で、かつ今回の件に関係してくる人間。
それはつまり橘 静香さんか、御堂 幸恵さんとなっている。
そうなってくると結構納得できる。
この二人のどちらかが僕と祐二君の後をつけていて、この家を見つけた。
僕が家を出た時、鍵をかけなかったのをチャンスとこの部屋に潜り込む。
そこで眠っている祐二君を見つけ、彼の行動を止めようと拳銃を奪い取っている最中に僕が戻った為、慌てて身を潜めたと。
・・・・・・ふむ。
推論にしては上出来といったところか。
ということはこの家のどこかに橘さんか御堂さんが潜んでいるという事になるが・・・。
まぁ確信が持てたわけじゃないし、拳銃を持った相手には違いないわけだ。
不用意な行動はせずにここはじっとしているとしよう。
・・・・・・しかし失敗したな。
拳銃は僕が先に奪い取って予めどこかに潜ませておくんだった。
・・・よし、ここは一つ試してみるとしよう。
僕は一呼吸置き、ゆっくりと語り出す。
「それにしても服部 祐二、君はどこで道を間違ってしまったんだろうな。何も知らずにあのまま生活していれば、いずれ問題が生じるとはいえこんな事にはならなかったかもしれないというのに・・・。」
僕はわざとやや大きめの声で言った。
「君のフィアンセの予定だった橘 静香さん。彼女にはどちらにしてもかわいそうな事になるだろうなぁ。・・・・・・そうだ、彼女もまだ服部 祐二を心配しているかもしれないな。一応電話をしてみるか。」
僕はそういって携帯電話を取り出し電話をかけるフリをする。
その瞬間、僕は小さなガタっという音を聞き逃さなかった。
・・・・・・決定的だな。
この家からは電波が届かないのを知らない彼女は思わず焦って携帯電話を取り出して電源を落とすかマナーモードに切り替えようとしたんだろう。
その際にどこかに体をぶつけた音がしたんだろうな。まぁ、考えられるのは一番近くて身を隠しやすい風呂場かトイレといったところか。
相手が橘さんだとわかればとりあえずはなにも問題はないだろう。
さて、どうするか。
ここまで読んで下さった方々。本当にありがとうございました。
心より御礼申し上げます。
ここより物語は終焉へと向けて走り始めます。
どんな結末が待っているか、おおよその予想はつくかもしれませんがどうぞこの喜劇に最後までお付き合い下さいませ・・・。