第五十八話 不審な家
・・・・・・いないみたいだ。
呼び鈴を数度押してみたが反応はない。
この時間で連絡も取れず家にいない・・・・・・となると長谷川さんは今どこにいるのか。
俺は何気なくドアノブに手を伸ばしてみる。
・・・・・・!
鍵が・・・開いてる?
以前来た時にわかっていたことだが長谷川さんはここには一人暮らしのはずだ。
こんな街中で外出するときに鍵をかけないなんて事はまずないはず。
どういう事だ。
俺は奇妙なこの状況を判断する為にも周囲を気にしつつ長谷川さんの部屋に入る。
「・・・おじゃま・・・します。」
小声で言ってみた。
だがやはり反応はない。
辺りはすで暗くなってきており部屋の中も電気をつけないとよく見えない。
俺は無意識にスイッチの場所を手でまさぐってみた。
・・・これだ。
カチっという音と共に部屋の蛍光灯に明りが灯りだす。
・・・・・・。
やはり誰もいないか。
俺はぐるりと部屋を見回してみる。
テーブルにはなぜかコップが二つ置いてあるままだった。
誰かがいた?
コップの配置的にも誰かの為に差し出された物であるという事は明白だった。
中身は・・・コーヒーか。飲み残しでわかった。
他に目につくような物は特にない。
長谷川さんはどこにいったのだろう。
部屋の鍵を無用心にも開けっ放しでコーヒーを入れたと思われるコップは置きっぱなし。
あの人の性格からして飲み終えたコップをいつまでも置いておくとは思えない。
俺は部屋をもう一度ぐるりと見回して特に目につくものがない事を再確認すると部屋を出ようと玄関に近づいた。
その時。
「・・・あれ。」
急に部屋の電気が消える。
俺はまだ消していない。
ブレーカーが落ちたのか?
・・・・・・そんな一瞬の考えを抱いていた時、何かが動く気配。
長谷川さんの家は一人暮らしにはやや広めの2DKだ。
だが二部屋とも軽く確認したが誰もいなかった。
何かがガサガサと動く音が微かに聞こえる。
俺は焦りと不安で玄関を背にしたまま、暗闇に目をこらす。
「・・・だ、誰かいるのか?」
その声に応答はない。
うろたえたまま、硬直していると何かが目の前に近づいてくる気配がした。
「だ、だれだ!」
俺はそう言うのと同時に頭を強く殴られた!
「・・・・ぅ。」
そのまま意識は薄れ・・・・・・。
誰・・・だったんだ・・・和弘をやったやつ・・・・か。
俺はその場に倒れ意識を失った。