第五十六話 再捜索
やはりただ闇雲に走っても兄貴は見つからなかった。
俺は夕日を背に街中のとぼとぼと歩く。
今日、昼間一之瀬から連絡があった。
この前から全然連絡を入れてなかったし、学校にも行ってなかったから不安がって連絡をしてきたのだろう。
俺は今までの簡単ないきさつと今の現状を出来る限り簡潔に彼女に話した。
一之瀬は・・・・・・多分俺に気を使ったんだろう。
口調がおとなしかった俺にやたらと話しを振ってきた。
おかげでずいぶんと長電話になってしまったが・・・。
それにしても・・・。
「これって・・・たぶん・・・・・・。」
俺は兄貴のテントの中で見つけたメモを取り出しまじまじと見つめなおす。
気になるのは・・・これだ、三行目のくだり。
”俺は全てに決着をつけて最後、自分で自分に幕をおろそうと思う。”
これはなんだ?
決着をつけてってのは・・・多分目的の誰かを殺す事なんだろう。
そしてその後の自分で自分にってのは・・・。
自殺するつもり・・・なのか!?
しかしこの文からはそうとしか読み取れない。
戻ることはできない。ならば自分はその手を汚して、さらにその手で自分を片付ける・・・という事なんだろう。
時刻はもう16時を回る。
もう手遅れなんだろうか。
兄貴の・・・目的の手がかりはさっぱりだ。時間ばかりが過ぎていく。
兄貴・・・兄貴兄貴!!!
どこにいるんだよ!!!!
俺はやるせなさを胸に街中をふらつく・・・。
そういえば長谷川さんと橘さん・・・それに御堂 幸恵はあれから兄貴に会ったんだろうか?
俺以外の人間は・・・今何をしているんだろう。
連絡手段が比較的簡単に取れるのは長谷川さんだ。
俺は他に方法も思いつかなかったのですぐ携帯を取り出し長谷川さんに電話をかける。
1コール・・・2コール・・・3コール・・・4コール・・・
そういえば長谷川さんに俺から電話をかけるのは初めてだな・・・。
5コール・・・6コール・・・7コール・・・8コール・・・
9コール・・・
十のコールが鳴り始めるその瞬間にコール音は止んだ。
「はい、長谷川です。」
「あ、長谷川さ・・・」
「ただいま電話を取れない状況です。御用の方は・・・。」
自作の留守電モード・・・・・・。
なんだよ!!
長谷川さん、何をしてるんだろう。
仕事だとしてもそろそろ終わってもいい頃だ。
まさか兄貴に関する事で何かあったんだろうか?
長谷川さんは俺の知らない何かを知ってる。
一番兄貴に詳しい人間は多分、長谷川さんだろう。
ははは。笑えてくる。
実の弟ではないとはいえ十数年間共に暮らしてきた俺が他人より兄貴の事を知らない。
なんだかバカバカしくなってきた。
何やってんだろ、俺。
あのクソ兄貴のせいで俺の生活はぐちゃぐちゃだし、兄貴に詳しい人間はまるっきりの他人だし、橘さんも兄貴の事ばかりで参ってるし・・・・・・。
あー!!!
もう!!!!!!
俺はその場で軽く地団駄を踏んだ。
ちらほらと・・・そこらからコオロギの鳴き声が聞こえ始めてきた。