第五十三話 行方知れずの兄
祐二を発見した次の朝。
私は寝不足な眼をこすりながら朝食の準備をする。
「・・・静香?以前よくしていた指輪はどうしたんだ?」
おじいちゃんは元刑事だっただけにそういう細かい洞察眼は鋭い。
「ああ・・・一週間くらい前だったかしら。祐二に渡したの・・・ちょっと不良部分があったから・・・。」
「そうか・・・てっきり彼と喧嘩別れでもしたのかと思ったよ。」
・・・喧嘩別れ・・・。
その方がどんなに気が楽だっただろう。
祐二には一方的に結婚できないと言われてしまった。
今日も・・・会いに行くべきか・・・。
「静香、最近体調が悪そうだな。何かあったのか?」
「いえ・・・別に。ちょっと体調が優れないだけよ。」
「そうか。ならいいが・・・。」
おじいちゃんは・・・何も知らない。
私と祐二はまだ仲良くお付き合いしていると思ってる。
おじいちゃんも・・・彼の話題は好まないから私はその話題を出すことはなかった。
「そういえばさ、今更だけど私のお兄ちゃんって今何してるのかな?」
「・・・ずいぶん久しぶりにそのセリフを聞いたな。どうした。急に?」
「ううん・・・別にただなんとなくね・・・。」
「ふむ。・・・以前にも言ってると思うが、私の遠い親戚の家に預けられたキリ連絡はないよ。」
「その親戚って誰?」
「・・・さぁな。私の親類はほぼ疎遠状態だからな。ずいぶん昔に預けられてから無連絡だしな。私にもよくわからないよ。」
「どうして・・・お兄ちゃんは急に親戚の家に行っちゃったのかな?」
「お前が生まれてすぐ両親が亡くなった事は以前に言っただろう?その時私一人では生活的に難しかったからな・・・親戚の家で預かってもらう事になったんだよ。」
「ふーん・・・そうなんだ。」
やはりおじいちゃんは、兄の話を尋ねるといつ聞いても同じような事しか言わなかった。
もし私の兄がどこかで元気にしているなら・・・ちょうど祐二と同い年くらいだろう。
「静香。仕事はいいのか?」
「あ・・・そうね。じゃあそろそろ行くわ。」
「ああ。気をつけてな。」
私はそう言って家を出る。
・・・正直しばらく会社には言ってない。祐二捜索の件で適当な理由で休むと連絡し、そのままだからだ。
今日は・・・どうしよう。
やはりもう一度祐二に会いに行くべきなのだろうか。
・・・今日は一人で会いに行ってみよう。
昨日は幸恵や長谷川さんがいた。そのせいで祐二も萎縮してしまっていたのかもしれない。
時刻はまだ8時前・・・。
祐二はあんな場所で一人で過ごしていたんだ・・・。
今もあの場所でまだ眠っているのだろうか。
私は祐二と昨日接触した場所に再び向かった。