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第五話 9/5その5

辺りは夕闇が包み始め、ところどころからコオロギの鳴き声がちらほらと聞こえ始めてきた。


さーっと心地よい風が吹く。


この風を浴びるだけで気分は多少晴れていった。


「・・・・ふぅ。」


軽くため息をつく。

それは体の奥底から溜まった疲れが、まるで飽和し耐え切れなくなって出てきた物の様に。






「ああ・・・今日はまだ静香に電話してないな・・・。」

ふと思い出した。


俺は携帯を取り出すと、おもむろに彼女に電話をかける。










「もしもし、静香?」

「あ、祐二?今日はスポーツクラブの日だったわよね。お疲れ様〜。」

「ああ・・・うん。静香はもう家?」

「ううん。まだだけど、そろそろ着くかな。」

「そうか・・・静香も仕事お疲れ様。」

「ん・・ありがと。」

「そういえば明日だっけ?お前のおじいさんと会うの。」

「んー・・一応そのつもりなんだけど・・・。」

「まだ話してないってわけか・・・。」

「はは・・・ごめん。」

「いや、いいよ。別に無理して明日じゃなくたっていいわけだし。」

「ううん、ちゃんと明日合わせる様に話すから。」

「そうか。」

「・・・祐二?どうかした?」

「いや・・・別に。なんで?」

「なんか声に張りがないから・・・いつもならスポーツクラブの後、今日はなんとかだったー!とかって言うから・・・。」


静香はそういう面に本当に気がつく。


「ああ・・・ちょっとね。また後で話すよ。」

「そう・・・。あ、そろそろ家につくから切るね。」

「ああ、またな。おじいさんによろしく。」

「うん。またね。」




静香のじいさんか・・・。ガンコだって話はよく聞くけど実際に会って話した事ないしな。

明日の印象悪くしない為にも今日の滅入った気分をなんとかしないとなぁ。


ああ、そういえば今日は9/5だったっけ。

ちょうどいい。墓参りに行っておこう。









「おや、いつもご苦労様。今日はどうしたいね。」

「今日は父の命日なので・・・。」

「あー。そうだったんだね。お父さん、喜んでるよ。」



そういうと神主さんに軽く会釈をし、父の墓前に向かって行った。


「・・・これは。」

父の墓前には今しがた飾られたばかりの花とタバコが添えてあった。

誰か来たのだろうか・・・。

母は墓参りに来てもタバコは添えた事はない。

修二のやつもタバコは吸わないからわざわざ買ってもってくるような事はしないハズだ。


それとこれは・・・なんだ?

それは楕円形の金属片のようなものだった。

ただのゴミだろうと思って俺はそれを墓石の下に投げ捨てた。


俺は自分の持ってきた花を飾り、少しの間合唱して父の墓前で祈ると神主さんの元へ行った。


「あの・・・。」

「はいはい、どうしました。」

「今日、誰か私の父の墓参りに来た方っていますか?」

「んー・・どうだったかな。わしもずっと表にいるわけじゃないんでね。ようわからないなぁ。」

「そうですか。」

「どうかしたんかい?」

「いえ・・・父の墓前にタバコが添えてあったので、少し不思議に思い・・・。」

「ふむ。あー・・そういえばタバコくわえながら来た客がいたっけなぁ。」

「その人が私の父の墓を?」

「いやぁ、わしもそこまではわからんけんど、ただ墓地でタバコは遠慮してくだせぇって言ったかなぁ。」

「そうですか・・・どんな人でした?」

「うーん、一人はがっちりした中年、もう一人はひょろっとした感じの人だったかなぁ。」

「二人来てたんですね?」

「んだよ。がっちりした中年の男は、わしがタバコの事注意したら黙って消してそのまま墓地に行っちゃったからねぇ・・・。」

「そうでしたか・・・。ありがとうございました。」


軽く会釈をし、俺は墓地を後にした。


誰だろう・・・。去年までこんなことはなかったハズだが・・・。

帰ったら一応母さんにも聞いてみるか。

修二にも・・・いや、やめておくか。あいつ最近俺の事避けてる感があるからな・・・。 

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