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第四十七話 激突

「・・・祐兄。」


俺はその背中を見て言った。


「・・・修二か。」


たった数日会えなかった兄貴の声は何年ぶりかに聞いたような懐かしさを漂わせた。


俺は言いたい事が沢山あった。聞きたい事が沢山あった。

ありすぎてそれを表現するのが難しかった。


「・・・何してんだよ。」

「その調子だとさっきから覗き見してたんだろう。・・・見ての通りだ。」

「は?・・・全然わけがわかんねぇよ。説明してくれよ!」

「・・・。」


祐兄は黙る。

祐兄の頑なな心はちょっとやそっとじゃ打ち破れなさそうだ。


「・・・母さんは元気か?」

「ああ・・・。」

「そうか・・・じゃあもう帰れ。ここに俺がいる事は母さんには言うなよ。」

「帰れって言われて帰れるかよ。話を聞くまで俺は帰んねぇぞ!」

「・・・修二。」


祐兄はこっちを見て俺をじっと見つめた。


「俺はな、やらなきゃいけない事があるんだよ。」

「なんなんだよ、それは!説明しろっつってんだろ!」

「うるさい!・・・お前はお前の生活をしろ。俺の事は忘れろ。」

「・・・こんの・・クソ兄貴!」


俺は激情にまかせて兄貴の胸ぐらを掴む。


「・・・離せ。」

「離すかよ!なんでなんにも言わねぇんだよ!橘さんも俺も・・・どんだけ心配したと思ってるんだ!」

「じゃあ何か、言ったところで・・・説明したところでお前達はどうする?俺の望みどおり俺を助けてくれるのか?俺を助けるって事は、その手を血に染めるって事だぞ!」

「っぐ・・・。そうじゃねぇ!一人でうじうじしてるよりみんなで話した方がもっといい方向に解決できるかもしれねぇだろうが!」

「知った風な口を聞くな!お前達にはどうする事もできないんだよ!」


祐兄はそういうとすばやく俺の腕を振りほどく。


「帰れ!帰れ帰れ!!」

「帰らねぇったら帰らねぇよ!」

「この・・・修二!お前には関係ないんだって言ってるだろうが!」

「うるせぇ!いいかげんに白状しろ!」


俺は我慢できずに祐兄の右頬を殴った!


「・・・っが!」


兄貴は軽くしりもちをつく。俺はそのまま馬乗りになって馬上より兄貴を煽る!


「兄貴・・・話を聞くまでどかねぇからな!」

「くっそ・・離せ修二!」

「兄貴が話すまでどかねぇ!」

「どけ!」


祐兄は反動使って俺を押しのける!

俺は仰向けに返され、祐兄は俺との間を離した。


「・・・っは・・・っは!」

「はぁ・・・はぁ・・・!」


俺達は荒れた息を直すまでの数秒、距離を保ったまま硬直した。


「しつこいぞ修二!」

「祐兄が頑固だからだよ!」

「ったく!お前は昔っからそうだ。俺のすることなすこと知りたがる。気にいらなきゃ今みたいに引かない・・・。」

「そうだよ!悪いか!」

「悪い!うざったいんだよ!!」

「・・・んだと!?。確かになぁ・・・兄貴はすげーよ。何やらしてもソツなくこなすし、勉強も力も俺じゃいっつも敵わない!だからこそ俺は兄貴に近づきたいんだよ!」

「俺に近づきたいだと?・・・バカな事を。何も知らないまま、教えられるがままに生きてきたお前が悪いんだろう!結局一人じゃ何もできない!だったらおとなしくレールにしたがってこのまま生きろ!!」

「・・・確かに俺はバカだし教えられなきゃなんもわかんねーよ。だけどなぁ、これだけはわかる。今兄貴がやろうとしてる事を力づくでも止めるって事だよ!!」

「それが迷惑だって言ってるだろう!」

「バカ兄貴!俺の迷惑はいつもの事だろ!でもなぁ今回の迷惑だけは譲れねーんだよ!」


俺達は互いに溜まったうっぷんを晴らすがごとく大声で怒鳴りあう。

兄貴とこんな喧嘩するのは久しぶりだ・・・。

だけど!

確かに兄貴の言う事は今まで正しかった!

そうだけど!

今度ばかりは譲れない。兄貴のやろうとしてる事は絶対ロクな事じゃない!!


俺は祐兄が間をおいた一瞬、再び飛び掛った。


「・・んのぉ!」

「馬鹿やろうが!」


俺はそのまま兄貴とつかみ合いになり、まるで子供同士の喧嘩のように殴ったか殴られてるのかわからない状態で縺れ合う。


それからしばらくはバカだのアホだのといった直情的な言葉を発しながらもめ合った。












「っは!・・・っは!・・・っは!」

「・・・ハァ!・・・ハァ!・・・ハァ!」


俺達は・・・時がたつのを忘れ、互いの体力がなくなるまでもつれ合った。

気づけばすでに景色は赤い・・・夕焼けが周囲を包む程の時刻になっていた。


「はぁ・・・はぁ・・・。」

「はっ・・・はっ・・・ゆう・・・にい・・・いい加減に・・・教えろよ。」

「修二・・・しつこい・・・ぞ。」


ようやく会話になる言葉を発した時は、すでに互いの声は枯れる程だった。


俺達はしばらく動かずに・・・いや、少なくとも俺はもう動けなかった。そのまま仰向けに空を見てた・・・。


息が整え始めた頃、祐兄は再び声を発しだす。


「修二・・・俺達ってしょっちゅう喧嘩してたなぁ。」

「ぁあ?そうだよ・・・それがどうした。」

「まるで本当の兄弟みたいだったよな・・・。」

「本当の兄弟だろうが!」

「そうか・・・そうだなぁ。」


祐兄は軽く笑いながらしばらく黙ると俺の方を見た。


「・・・ったくうるさい弟だ。俺がいねーとなんもできないな、お前は。」

「ああ、そうだよ!だから教えろっての!」

「ふぅ・・・しつこいなぁ。」

「兄貴の弟だからな。」

「全くだ。そういうところは俺にそっくりだ。」

「っだろ?だったらわかるよな、俺はひかねぇ。」

「わかったよ。」

「え。」


俺はハっとして祐兄の方を見る。

祐兄はいつの間にか視線を空に向けたまま話しだした。


「・・・修二お前さ、いつから俺と一緒だったと思う?」

「はぁ?しらねぇ。気づいたら兄貴はいたよ。」

「そうか・・・そうだよな。俺も気づいたらお前がいてそれが当たり前だった。」


祐兄の言う事がいまいちよくわからない。


「もう面倒だからはっきり言うが修二、お前は俺の本当の弟じゃない。」


なんとなく、今までの経緯からしてそんな感じはしていた。


「なんでさ?」


質問が妙な言葉になってしまう。


「正確にはな、俺が正式な服部家の人間じゃないんだよ。」

「・・・。」


俺は黙ったまま兄貴の言う事に耳を傾ける。


「俺は7歳だか、8歳くらいの時、服部家の養子として迎えられたんだ。その時はまだお前赤ん坊だったからなぁ。覚えてなくて当たり前だ。」

「・・・まじか。」

「ああ、まじだ。俺達の両親・・・正確にはお前の両親はな、なかなか子供に恵まれない夫婦だったんだ。それでお前の両親はお前が生まれるちょっと前に養子縁組希望を出してたんだよ。で、俺が選ばれて・・・いやちょっと違うか。まぁいい。とにかく俺が服部家の養子になると決まったその直後、母さんはお前を身ごもったんだよ。でもお前の両親は俺を引き取った。いい・・・両親だよ。」

「・・・んなこと、信じられっかよ。」

「ははは、そうだよな。俺もつい最近まですっかり忘れてたよ。全然違和感なんてなかったし、お前とも本当の兄弟のように育ったよなぁ。」

「・・・祐兄の本当の両親はどうしたんだよ。」

「・・・。」


祐兄は俺のこの質問を聞くと、顔つきが一瞬変わった。


「・・・さっき長谷川という男が言ってたよな。俺の事を小沢 祐二って。」

「さぁ・・・。」

「お前もいたんだろう?」

「・・・まぁ。」

「俺が養子にもらわれる前の名前・・・俺は小沢という家の名前の息子だった。」


小沢・・・そういや長谷川さんがそんな名前を呼んでいたな。


「俺もはっきり覚えちゃいなかった。だけどな、ある一件から急にフラッシュバックしたかのように記憶がよみがえったんだよ。」

「ある一件?」

「お前がここまで来ることから予想して、井沢の話は聞いてるだろう?ヤツが・・・ヤツが思い出させてくれたんだよ。」

「・・・。」

「俺の本当の母親・・・小沢 真理子はな不慮の事故で殺された。」


不慮の事故なのに・・・殺された?


「詳しい事は知らない。ただ、何かの事件のとばっちりを受けて・・・拳銃の跳弾で死んだ。でも今更そんな事を知っても別に復讐する気などこれっぽっちもなかった。だけどな・・・ある日知っちまったんだよ!俺の母親を殺したヤツの事を!」

「そうだったんだ・・・。だから兄貴は・・・手を汚してまでそいつを殺そうと?」

「ああ、そうだ。身を隠してたこの数日間でこいつを仕入れた。・・・まぁ正確には借り物だ。もらえるわけはないがな。こいつで同じ殺し方をしてやろうと思ったんだよ!」


そういうと祐兄は先ほど威嚇に使った黒い凶器を・・・手にとって見せた。


「兄貴!そんな事やめろよ!長谷川さんも言ってただろ。過去の事は過ぎたことなんだ。今更そんな事してどうするんだよ。」


祐兄は落ち着いた口調で再び語り始めた。


「・・・ちょっと話過ぎたな。でもなぁ、修二。俺はもう止められないんだよ。」

「やめろよ!どんな言い訳したって所詮人殺しは人殺しだぞ?許される事はないんだよ!」

「・・・そうかもしれないけどな。どのみちここで俺が復讐を実行しなくても、もう元の生活には戻れないんだよ・・・全てを知ってしまった。」

「全てって・・・母親殺しの人間を知っただけだろ!?そりゃ・・・母親がそんな死に方したらムカツクかもしれねぇけど・・・だけど、今の母さんだって祐兄に冷たくしたわけじゃないだろ?今の生活になんの問題があるんだよ!?」

「全てってのはな、そんな単純な事じゃないんだよ。」

「まだ・・・まだなんかあんのかよ!」

「・・・修二。これ以上は話せないし、話す必要もない。」

「やだよ!教えろよ!!」

「・・・・・・わかった。明日教えてやるよ。だけど今日はもう帰れ。もう真っ暗だ。」


いつのまにか、だがたしかに周囲は夕闇の時刻をとうに通り過ぎ、漆黒の闇が包んでいた。


「お前の帰りまで遅いと母さんが心配するだろ。」

「ってことは・・・祐兄は今日も帰らないのかよ・・・。」

「・・・明日、全部話してやるよ。」

「本当だな?」

「ああ・・・約束だ。だから今日はもう帰れ。」

「・・・わかったよ。明日またここにくる。」

「ああ・・・。」

「兄貴・・・ちゃんと全部説明しろよ!」

「ああ、気をつけて帰れ。」

「兄貴も・・・バカなまねはするなよ!」

「・・・・・・じゃあな。」


今日はこれ以上兄貴を問い詰めても何も話そうとしないだろうと察して俺はそこを後にした。

明日・・・兄貴は全てを話すと言った。










・・・ってぇ・・・。

兄貴のやつ結構マジに殴りやがって・・・俺もだったけど。


祐兄・・・ちゃんと明日全て話してくれるのだろうか。

でも約束した。


ここは兄貴を信じて帰ろう・・・・・・。









コオロギの鳴き声がふと耳につき始めた今頃になって俺は兄貴と会えた事に・・・涙した。

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