第四十二話 接触
あまり眠れないまま夜は明けて、俺は彼女たちが落ち合う場所に聞いていた予定時刻よりやや早めに待機していた。
昨日の話が・・・御堂 幸恵の話が本当ならばここに祐兄がいるはずだ。
兄貴はここで一体何をしているんだろう。
それに俺は別にここで隠れて彼女たちの後を尾けるような真似はしなくてもいいんじゃないのか・・・?
だが昨日の話は俺は聞いてない事になってるわけだ・・・ここは隠れながら橘さんたちの後をつけていく事にしよう。
しばらくすると遠目で橘さんが歩いてくるのを確認した。
橘さんは昨日の約束通りの場所で待機している。
俺はその少し離れた位置から彼女を見守る。
御堂 幸恵も・・・時期にくるのだろうか。
橘さんも落ち着かない様子でその場をうろうろしている。
当然といえば当然だ。その屋上には今まで探し求めてきた兄貴が、服部 祐二がいるのだから。
その数分後、御堂 幸恵が合流する。
彼女達はひとしきり、何かしら会話をするとビルに入り屋上へと向かっていった。
俺は一定の距離を保ち彼女達の後を追う。
「ここに祐二がいるのね。」
「そう・・・あの貯水タンクが見えるわよね。そこの裏手、ちょうど外からも死角の場所に彼の隠れ家があるわ。」
「隠れ家・・・。」
「隠れ家というより、小さなテントのような物と生活最低限の必需品しかないけどね。」
「いきましょう。」
彼女達はそう言うと、そのまま祐兄がいると思われる場所に歩きだす。
俺は屋上の出口のドアの隙間からその様子を伺う。
「また君か。」
聞き覚えのあるなつかしい声。
間違いなく祐兄の声だ!
その言葉が表す意味は御堂 幸恵を指す物だと思われた。
ここからははっきりとは見えないが彼女達の少し離れた位置に誰かが動いている。
それが祐兄だろう。
「・・・祐二さん、静香もいるわ。」
「静香・・・。」
「祐二・・・。」
二人はお互いに名前を呼び合うと少しの間沈黙する。
祐兄・・・本当にこんな所にいたんだ。
一体何してたんだ!!
俺はふつふつと湧き出る、怒りやらうれしさやら悲しさやら混ざった感情に包まれる。
「・・・御堂さん。君が言ったのか。」
「まぁ、そういう事・・・。」
「祐二・・・説明してくれるんでしょう?」
「祐二さん・・・話してあげて。静香はあなたがいないとダメになっちゃうわ。それに・・・こんな事もう意味がないよ。」
彼女達は必死に祐兄を問い詰める。
それを聞いても祐兄はなかなか話そうとせず、黙って座り込んでいる。
「祐二・・・どうして私達の前からいなくなったの?それに井沢という男の事とか・・・どうして何も話してくれないの!」
橘さんは次第に口調が強くなっていった。
「・・・静香。君は覚えてないだろうな。」
「え。」
祐兄は静かな口調で話し始めた。
「・・・君とはどのみち結婚は出来ない。」
「どうして!?この前まであんなに仲良くやってたじゃない!どうしてなの!?」
「それは・・・。」
祐兄がそこまで話した時。
「そこまでだ!」
誰だ!?
その声の主はちょうど屋上入り口の裏側から出てきて叫んだ。
俺はドアの隙間からその様子を伺う。
「服部 祐二さんだね。」
「そうだが・・・あんたは誰だ?」
あれは・・・。