第四十話 パンドラの箱
「彼はね見つけてしまったのよ、パンドラの箱を。」
な、なに?パンドラの箱??
俺と橘さんはきょとんとした。・・・実際その場できょとんとしているのは橘さんだけだが。
ずっと物静かに話を聞いていた長谷川さんがピクっわずかに反応する。
「そして、今まさにパンドラの箱を開けようとしている・・・。いえ、もう開けてしまったのかもしれないわ・・・。」
「幸恵・・・どういう事なの?」
御堂 幸恵はフッと笑う仕草をし橘さんを見る。
「井沢が死んでから、私と祐二さんは接触を避けたわ。まぁ警察は祐二さんに注目していたみたいだけど・・・。祐二さんがおかしくなったのはその後よ。彼は言ってたわ。」
”井沢が残してたメモと写真。これが俺を脅す理由だったんだ。・・・しかしな、これを見つけたおかげで俺は長い眠りから目が覚めたようだよ。”
”祐二さん・・・?”
”井沢は誰に殺されたのかわからないが、俺にはやるべき事が出来た。君はもう関係ない。普段通りの生活に戻るんだ。”
「井沢が死んだ次の日くらいだったかしら。祐二さんは井沢がいつも住まいにしてたダンボールの中を見てきたと言ってたわ。きっと祐二さんは自分の過去についての品を残しておくのはまずいと思ったんでしょう。」
井沢 忠彦が死んだ次の日・・・俺が和弘と遊んだ最後の日だ。あの時家で兄貴は何かゴソゴソやってたな・・・。
「つまりこういう事か。服部 祐二を脅していた井沢は何かしらの物的証拠を抱えていた。そして井沢が死んだ事で、井沢が持ってた情報を得た。それから服部 祐二は自分の過去についてのなんらかを知る。それが原因で姿をくらましたと。」
「まぁ、そんな感じだと思うわ・・・。私も詳しくは知らないの。私が知ってるのはここまで・・・。」
長谷川さんは何かを考え込む様にうつむいている。
橘さんは様々な事実に驚愕している。
俺は・・・複雑な気持ちだった。
「・・・ひとまず静香。」
「何・・・幸恵。」
「今日はもう遅いから、明日のお昼頃、△△ビルの昇降階段の一階で待っててくれるかしら。明日そこで・・・祐二さんに合わせるわ。」
「・・・わかったわ。」
「・・・静香。今まで黙っててごめんね・・・。」
「いいのよ・・・。幸恵も辛かったのよね。ありがとう・・・祐二の為にそこまでしてくれてて・・・私なんかより全然偉いわ。」
「そんな事・・・。」
その時初めて御堂 幸恵は感情を表に出すように涙をひとつ、頬から流した。
「・・・ぅ・・ごめん・・・ね。静香・・・ぅぁ・・・・ひっく。」
抑えてきた感情が爆発したかのように御堂 幸恵は泣き出す・・・。
「いいの。いいのよ、幸恵・・・。」
橘さんは御堂 幸恵を抱きしめ・・・彼女は橘さんの腕の中でしばらく嗚咽を漏らす。
「・・っうく・・・・お願い・・・祐二さんを・・・止めてあげて・・・。」
「祐二を・・・止める・・・。」
「このままだと・・・静香にとっても祐二さんにとっても最悪の結末しか残っていないわ・・・。静香しか・・・もう無理だと思うの。」
「私で何ができるかわからないけど・・・明日一緒に会いに行く。だからもう泣かないで?ね、幸恵。」
「・・・・うん・・・うん・・・。」
御堂 幸恵・・・彼女は正義感から起こしたこの事に誰よりも罪を重く感じていたのかもしれないな・・・。
俺は怪しいと睨んでたこの女に同情の念を抱いてたその時。
「・・・すまないが、御堂さん。ちょっと話を戻すよ。」
「・・・うん。」
「まさかとは思うが、君が僕に接触したかった理由は・・・。」
「・・・そう。あの事。もう長谷川さんなら・・・わかるよね。」
「やはりか・・・。調べたんだな。」
「ごめんなさい・・・。でもあなたは何か知っていそうだったから。」
「・・・くっく。」
長谷川さんは会話のつじつまの合わないところで微笑した。
そして三人はそのまま別れた・・・。明日、橘さんと御堂 幸恵は祐兄に会いに行くんだろう。
長谷川さんは少ししてから俺にメールをよこした。
”修二君、色々黙っててすまなかったね。今日のところは君ももう帰った方がいいよ。明日、橘さんと御堂さんは君のお兄さんに会いに行くだろう。君も後を尾けていくといい。僕はちょっと調べたい事があるから明日は別行動だ。”
俺は今日のところは引き上げた。
長谷川さんはまだ何か隠してる・・・。
だが詮索しても今はこれ以上何も情報は得られないだろう。
とりあえずは明日、祐兄に話を聞くことが第一優先だ。