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第三十九話 許されざる者

ゆっくりと、だが一層真剣な顔つきで御堂 幸恵は語り出した。


「全ては井沢 忠彦、あいつが余計な事をしたせい。あいつが・・・あいつがあんな事さえ言わなければ・・・こんな事にはならなかった!」


井沢・・・9/5に殺されたっていう男の事だ。やっぱり祐兄に関係してたのか。


「井沢・・・忠彦?誰の事なの、幸恵。」

「・・・私が・・・殺した男の名前よ。」


俺たちはみんな面食らった。この女、いきなり自白した・・・どういう事だ?


「もうね、隠しきれるものでもないし、全て話すわ。役者はそろってるようだしね。・・・ああ、修二君だけいないか・・・まぁ彼は知らない方がいいわね。」

「・・・渡辺君も君がやったのか?」

「・・・違うわ。」


な・・・なんだと?和弘は殺してない・・・??


「まぁ黙って聞いて?順を追って話すわ。」


長谷川さんはここまでだいたい予想していたようだった。きっと今までの事の他にも会社でも思い当たるふしを見つけたりもしたんだろう。俺の思惑の外でもっと深い考えがあってここまで予想できたに違いない。


しかしここからは・・・この先は御堂 幸恵の言葉だけが真実。



「長谷川さん、だいぶ修二君と仲がよかったみたいだしきっと聞いてると思うけど、祐二さんと井沢忠彦って男がスポーツクラブで仲良く話をしているのを目撃されてるの。でもね、すでにこれこそが間違い。二人は仲がよかったんじゃない。一方通行だったのよ。」

「・・・え。」

「井沢 忠彦って男は・・・腐ったヤローだわ。あいつは祐二さんを脅していたのよ。」

「祐二を・・・一体なんで・・・?」

「あいつと祐二さんはちょくちょくあのスポーツクラブで会ってたのはね、井沢が祐二さんにせびってたのよ。・・・昔の事をほじくり返してその事でお金をね!」

「そんな・・・。」

「・・・。」


橘さんは御堂 幸恵の話を度々一驚しつつ聞いていたが、長谷川さんだけは黙って話しを聞いている。


「私も正直なところ、詳しい事まではわからなかったの。祐二さんがあまり教えてくれなかったからね。でもね・・・私はある日偶然聞いてしまったのよ。」



”なぁ、祐二君。あの事ばらされたくないだろ?だったらおじさんを助けると思って今日も頼むわぁ・・・たった10万でいいんだよ。祐二君ならはした金だよなぁ?優秀な会社員だし。”


「その日はね、私もあのスポーツクラブに行ってたの。ほんとそれは偶然。あそこに私の友達が勤めだしたっていうからちょっと覗きに行ったのね。そうしたら二人が仲よさそうに話してるのを盗み聞きしたら・・・こんな内容だったってわけ。」

「なんて事・・・私、そんなの初めて知った・・・。」

「そりゃ静香には絶対言えないでしょう。」

「一体どうして・・・。」

「・・・私はそれを聞いた後すぐに祐二さんに問い詰めたわ。」


”祐二さん!どういう事!?あの変なオヤジにゆすられてるの?!”

”御堂さん・・・違うんだ。これは・・・。”

”違くなんてないわ!こんな事・・・静香は知ってるの!?”

”やめろ!絶対静香には言うな・・・もちろん他のやつにも言わないでくれ!”

”じゃあ教えて!どういう事なの!?こんな事、許されないわ!”

”・・・ここじゃ怪しまれる。あとで会社の向かいの屋上で・・・。”


「そして私は祐二さんの勤める会社の向かいのビルの屋上で話を聞いたわ。会社関係の人間に知られるのも不味かったんでしょうね。わざとそんな少し人離れした場所を選んだわ。」


”俺はね、過去に償いきれない罪を犯してしまったんだ。もうそんな事、ずっと忘れてたんだけど、つい最近あの男、井沢さんが現れて俺にこう言ったんだ。お前の昔の事件を知ってる。今更時効だろうが、知られれば世間体はどうあんたを見るだろうな。って・・・。”

”それで・・・口止め料でお金を・・・。”

”そういう事。・・・まぁでも払えない額じゃないし、金さえ渡せばあいつはちゃんと黙ってるようだったしね・・・。俺も静香との結婚を控えてこんな問題がバラされるのもやっかいだしさ・・・。”

”それで泣き寝入り?ばかね!一生ゆすられ続けるわよ!?”

”かもしれないな・・・。まぁ金さえ払っていけばなんとかなるし、悪いけど今は問題を起こしたくないんだ・・・。お願いだから君も絶対他言しないでくれ・・・頼むよ!”

”・・・祐二さんがそれでいいなら私はなんにも出来ないけど・・・。でもちゃんと静香には言った方がいいと思う。その昔の罪もね。”

”そうだな・・・機会があればね・・・。”


「その時はこれだけの会話で終わったわ。でもそれからしばらくしたある日の事。私は友達を迎えにスポーツクラブにちょっと寄ろうとしたのよ。その時その路地裏に入ってく井沢を見たの。私は祐二さんのゆすられてる一件もあったからあいつの後をつけたわ。」


”ああ、本当にいい金ヅルを見つけた。あいつは真面目そうだが小心者っぽいし、一生このまま寄生してやろう。ああ、そういえばあいつもうすぐ結婚とか言ってたな。相手の女もこの事を利用して遊ぶ価値があるな・・・こいつぁいい考えだ。”


「それ・・・私の事!?」

「・・・そうよ。私はカっとなってついその場で言ってしまったの。」


”あんた!最低だわ!!”

”な、なんだお前?誰だ?”

”祐二さんの知り合いよ!祐二さんはあんたに黙って貢ぐつもりだろうけど私は許せない!祐二さんには悪いけど、この事全部警察に話すから!!”

”な、なんだと、貴様。そんな事させるか!”


「・・・そういって井沢は私に襲ってきたわ。やっぱりオヤジでも男だわ。力じゃ適わなかった・・・。私は首を押さえつけられて脅されたわ。」


”このまま殺されたくなかったら黙ってろ!”

”や・・やめなさ・・・・”


「でもそこでふっと首が軽くなったの。気づいたら井沢は気絶していたわ。」


”・・・っげほげほ!!・・・はぁはぁ・・・ゆ・・祐二さん!?”

”はぁはぁ・・・だ、大丈夫か?!”

”う、うん・・・ありがとう・・・。”


「そこには私を救ってくれた祐二さんと、血を頭から流して倒れてた井沢がいたわ。祐二さんがとっさにバールのような物で井沢を殴ってしまったみたいなの。」


”・・・そいつ・・・死んじゃったの!?”

”・・・・・・いや、息はある!気絶してるだけみたいだ。救急車を呼ぼう!”

”でも・・まずいよ!祐二さん障害事件になっちゃう!”

”仕方ないよ!井沢さんピクリともしないし、まずい!!”



「祐二さんは走って救急車を呼びに行ってしまったわ。私はそこで呆然として考えた。そうしてる間に井沢の意識が戻り始めたの。まずいと思って思わず私はまた殴り倒したわ・・・。でも、それでもまた意識を失っただけだったの。ほんと、しぶとい男だわ・・・。」


”どうしよう・・・このままじゃ祐二さんも私も傷害罪・・・。”

”・・・うわぁ!?”


「その時よ、ほんとどうしようもない程、ありえない偶然。見られちゃったの。私が再び井沢を気絶させる場面をね。」


”ひ、ひとごろし!?”

”ち、ちがうわ・・・あ、渡辺君!?”

”あ・・・御堂さん!?なんて事を・・・!!”

”違うの!話を聞いて!”


「それが渡辺君だったわ。渡辺君は私だと気づいたらそこで立ち止まって話しを聞いてくれた。」


”そう・・・だったんですか。”

”今、ある人が救急車を呼びに行ってしまったのだけど、このままこの男が回復したらきっとその人も私もめちゃくちゃになってしまう!だからお願いがあるの!”

”・・・なんですか?”

”ロープを・・・すぐロープを買ってきて!そしてこいつを縛りあげて説得する!”

”・・・でも・・・。”

”お願い!私を助けると思って!!!”

”・・・わかりました。”

”私はここでこいつを見張ってるわ!よろしくね。”


「なるほどね、そういうわけだったかロープの意味は。」


長谷川さんが不意に話しだした。

俺も納得する。渡辺・・・最後に遊んだ時、あいつの態度がおかしかったのはこの事があったからだったのか・・・。


「そして私と渡辺君はロープで井沢をしばりあげて付近のビルの屋上に運んだ。そこが一番近くて人目が少なかったし、あのままだと祐二さんが呼んだ救急車が来てしまうから・・・。」


”・・・これだけ念に縛っておけば目を覚ましてもすぐに身動きは取れないでしょう。”

”・・・そうですね。”

”ごめんね渡辺君・・・。この事は忘れてもう帰っていいわ。”

”・・・御堂さんはどうするんです?”

”こいつと話しをしないとね・・・。”

”わかりました・・・じゃあ俺はここで・・・。”

”うん、ありがとう、ごめんね。”


「そこで渡辺君とは別れたわ。救急車を呼びに行ってしまった祐二さんは、その場所に戻って私と井沢がいなくなった事を知って何度も私に電話をしてきてたみたいだけど・・・私、電波の届かないところにいたみたいでつながらなかったみたい。」


”・・・っぐ。”

”・・・お目覚めね。”


「しばらくしたら井沢は目を覚ましたわ。」


”てめぇ・・・クソオンナ!!こんな事してどうなるかわかってるんだろうな。”

”ねぇ、お願いよ。祐二さんの事を脅すのやめて。彼は今、一番大事な時期なの。”

”うるせぇ!ここから出たらてめぇら一生付き纏ってやるからな。覚悟しろ!!”


「私は悟ったわ。もうこの男はどうしようもないクズだって。」


”祐二の恋人の橘って女も利用するだけ利用して、世間様に顔向けできない程売れっ子にしてやる。とことんやってやるからな。てめぇもだ、クソオンナ!”


「その瞬間、私の中で何か切れた音がしたわ。」








”・・・あなたはもうだめね。さよなら。”







「私はまた頭を殴ったわ・・・思わず力を入れすぎたのね。そのまままた気絶しちゃったわ。私はこの事を祐二さんに相談しようと思って外に出て祐二さんと合流したの。」


”祐二さん・・・あいつはもうだめよ。ばれないように殺すしかないわ!”

”殺すなんて・・・もう一度俺も行こう!もう一回井沢さんと話し合うんだ!”


「祐二さんがそう言うから仕方なくまたヤツを監禁した場所に戻ったの。でもね、ここからは私も祐二さんもさっぱりわからない。」


”・・・い、いない!?”

”・・・ここに確かに監禁したのか?”

”そ、そうよ!確かにここに縛って気絶させておいたのに・・・どうして!!?”

”逃げたのかもしれないね・・・御堂さん、今日はもう帰ろう。いつまでもこんなとこにいても怪しまれるよ。”


「私と祐二さんが戻ったら監禁して気絶させてたハズの井沢が消えてたの。その次の日、私は井沢を監禁してたビルに行ったら・・・井沢は死体となってたわ・・・どういうわけかわからないけど、あいつは殺されてたの。しかも屋上から落ちてね・・・。その井沢の死体のすぐそばになぜか落ちていたのよ。渡辺君の携帯がね・・・。後で返そうと思って持ってたら彼も死んでしまったというわけ・・・。」


「え・・・それじゃあ幸恵が殺したんじゃないの・・・ね?」

「多分・・・でも私は殺そうと思ったし、もしかしたら頭を殴りすぎてたからそのせいで死んでしまったかもしれないし・・・。」

「そんな事が・・・あったのね。」


俺は絶句した。

兄貴がゆすられてたなんて・・・御堂 幸恵は兄貴と橘さんの為にこんなにしてくれてたなんて・・・この人は・・・悪くない。悪いのは井沢とかいう男だ!


「・・・ふむ、なるほどな。」


ずっと黙ってた長谷川さんが急にしゃべりだした。


「とにかくその井沢が死んだ事で問題はなくなったハズだろう?なぜ服部 祐二は失踪したんだい?」


たしかに・・・。


「それはね・・・。」


御堂 幸恵は続きを語りだした。


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