表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/62

第三十七話 誘うコオロギ

「・・・どういう事だ?どうして君がここにいるんだい?」

「・・・これは何?どういう事なの?どうしてここに長谷川さんがいるの?」


互いにちぐはぐな会話をしているサマが聞こえる。

どういう事なのかさっぱりだ・・・長谷川さんはこれを予想してたっていうのだろうか?


「・・・そういう事か。」


長谷川さんはそういうと一呼吸置き突然声を上げた。


「隠れてるのはわかってるよ!そこにいるんだろう!!」


俺は完全に膠着していた。全然話が見えない。

長谷川さんは誰を呼んでるんだ?


そもそも・・・どうして・・・・。どうしてここに・・・。








ここに橘さんがいるんだ!?






「あの・・・長谷川さん。これどういう・・・。」

「ごめん、橘さん。君の事は正直予想外だったが、まぁなんとなく筋は読めた。」

「え・・・?それに今、誰を呼んでるんですか・・・?」

「彼女が来たら全て話そう。」


会話からすると橘さんも意外な事だったらしい。長谷川さんがいる事が。

それよりも長谷川さんは誰を・・・。

俺は今出て行くべきなのか・・・!?

いや・・・長谷川さんは何か知ってる。

今回の事を実行する前から何かに勘付いて行動しているようだったし・・・。

ここはまだ様子見だ。



様々な思惑が頭をよぎる中、さらに屋上入り口の扉から誰かが出てくる。





「・・・やーっぱり長谷川さんは侮れないわね。」



どこかで聞き覚えのあるその声。

それはまさしく・・・御堂 幸恵の物だった。

意味がわからなかった・・・。


どうして橘さんが?どうして御堂 幸恵が??長谷川さんは知っていた???



「こんばんは、お二人さん。・・・修二君はいないのね。」


俺の事も・・・勘付いてる!?

まだ待機か!!?


「それと静香、あなたもう少しうまく尾行した方がいいわ。ばれすぎよ。」


くすくすと軽い含み笑いをしながら御堂 幸恵は言った。

やはり全ての事件はこいつなのか?


「・・・幸恵、勘付いてたのね。私がつけてた事・・・。」

「まぁね。というか”予想”していたしね。」

「・・・え?」

「それと長谷川さん。私だって事に勘付いてたみたいだけど、どうしてかしら。」

「最初から君を疑ってはいたよ。まぁ・・・正直ここに来るかどうかは今、橘さんが現れるまで確信は持てなかったけどね。」

「・・・さすがね。」



意味がわからない会話が俺を除いてどんどんと進行してゆく。

俺はただそこでじっと聞き入るしかなかった。



「・・・幸恵。長谷川さん。どういう事なの?」

「静香、あなたが私をつけてくる事はわかっていたけど・・・まさか今日の今だとは正直予想外だったわ・・・あなたの執念のおかげね。」

「・・・全部・・・説明してくれるんでしょ?」

「まぁ御堂さんが話さなくてもだいたいは僕が説明できるだろう。」


長谷川さんがそういうと御堂 幸恵はピクっと反応した。


「・・・あら、そこまでわかるの?じゃあ長谷川さんに説明してもらおうかな。私、面倒だし。」

「まぁいいだろう。」


ゆっくりと一呼吸を置き長谷川さんは語り始めた。


「まずは僕の方から説明しよう。橘さん、君にわかりやすくするためにもね。」

「・・・お願いします。長谷川さん・・・。」

「僕と・・・服部 修二君がここ数日間、服部 祐二氏を探していたのは知ってるかな?」

「・・・え。長谷川さんも探してたんですか?修二君は知ってましたけど・・・。」

「・・・ふぅ、じゃあ一から説明しようか。その分だと君は渡辺君の件も知らないだろう。」

「・・・。」


御堂 幸恵は黙って長谷川さんの説明を聞いている。


「うちの会社の後輩で渡辺 和弘君っていたよね。」

「はい。」

「彼が・・・死んだのは知ってるかな?」

「ええ?そうなんですか!?・・・知りません。」

「そうか・・・君はここしばらく休んでいるようだったしね。」

「はい・・・。」

「全ては服部 修二君の行動の賜物だよ。」

「え・・・修二君?」

「先日、9/6の夜中に渡辺君が首を吊って死んだんだ。そしてその事で修二君は警察に事情聴取を受けていた。その際に服部 祐二氏が関わっている可能性のある殺人事件の話しを彼は聞く。彼は家に帰りすぐ服部 祐二氏に詳細を聞こうとした。・・・が服部 祐二氏は昨晩から失踪したという事を知る。そこで修二君は街中でお兄さんを探していたんだ。」


そう・・・その通りだ。

俺は和弘の事と殺人事件の事を聞いて、いてもたってもいられなくて・・・すぐ兄貴を探しに街へ出た。


「そこで偶然街中で僕と出会う。」


そうだ・・・今の所俺も知っている内容だ。


「で、修二君と僕は提携して服部 祐二氏の捜索と渡辺君の死亡事件についての捜査をしていた。しかし服部 祐二氏は全然見つからない。そこで僕たちはエサを撒いてみる事にした。」

「・・・えさ?」

「そう。さっき言ったよね。僕と修二君が偶然街中で出会ったって。あの日だよ、橘さんともすれ違った日、僕は後輩に呼び出されたと言ったね。実はあれ渡辺君から呼び出されていたんだ。でもおかしいだろう?渡辺君はすでに前日で殺されている。なのに僕にメールが来たんだよ。あそこで待ち合わせという内容のメールがね。」


そうだ・・・そして俺はそれはおかしいって言って今回の事件を長谷川さんに話したんだ。


「そして服部 祐二氏の捜索途中、僕一人で帰っていた時、僕にまた渡辺君からメールが来た。今度はただの空メールだった。その時に今回のエサ撒きを思いついた。」


そうだ・・・そしてここにおびき寄せる為に・・・じゃあ犯人は御堂 幸恵?でも橘さんもここにいる・・・?


「死んだはずの渡辺君がメールを出せるはずがない。じゃあ渡辺君を殺害した誰かが渡辺君の携帯を使って僕にメール送ったって事になる。ならば渡辺君の携帯に僕からメール送ったらやつは来るのか?って感じかな。まぁそうしたら見事に御堂さんとさらに橘さんが来たという事だね。僕は今日、渡辺君の携帯にはこう送った。」


”君は御堂 幸恵さんだね。だいたい筋は読めたよ。もし君に敵意がないのなら詳しい話しが聞きたい。二人きりで△△の屋上で話し合おう。それと返信はしないでくれ。そばに修二君がいる。”


「・・・こんな感じでね。」


な、なに!?俺が最初教えてもらったのと全然違うぞ!?

それに返信はしないでくれって・・・どういう事なんだ!!?


「どうして・・・幸恵だと?」

「御堂さん。」


長谷川さんは橘さんの質問を素通りして話を進めた。


「・・・何かしら。」

「君は・・・最初から匂わせていたんだね。僕に・・・。」

「・・・そうよ。」

「どういう事なの!?」


橘さんは状況の理解に必死だ。

しかしそれは俺も一緒・・・。


「あの時、君は印鑑を渡しに渡辺君に家に行こうとしてたろう?あれ、本当は僕単体に何か用事があったんだろう?でもそばに修二君がいた・・・。だからうまい言い訳で印鑑を届けるフリをしたんだろう。」


そうだったのか!?


「御堂さんは本当は僕と1対1で話しをしたかった。・・・が人目がある。しかも僕のアドレスや番号を知らない御堂さんは、渡辺君の携帯を使って遠まわしに僕だけを誘いたかった。だが・・・。」


「そう。だけどあなたと修二君が知り合ってしまった。」


御堂 幸恵はしびれを切らしたのか、急にしゃべりだした。


「さすがは長谷川さんね。やっぱり頭の切れる人だわ。最初のメールもただあなたをあそこに呼び出して、あなただけに会いに行く予定だった・・・。けど、途中静香とあなたが会ってしまうし修二君もあなたと会ってしまう。しかも修二君はあなたと意気投合しちゃうんだもん。とんだ誤算だわ。」


「やはり僕に用事があったんだな・・・。」


「で、修二君のおかげでただあなたを呼び出すだけのメールが不審なメールに変わってしまった。おかげでやりづらくなったわ。次の日だってあの場所に行ったら修二君と二人でいるしね。あんな場所に私がいたら修二君に変に勘付かれるかもしれないから渡辺君の印鑑を届けてなんて言い訳したの。その後も修二君のおかげでなかなかメールを出しづらかったしね。」


そうだったのか・・・御堂 幸恵・・・やはりこいつが犯人か!


「でもどうして私だとわかったの?私が渡辺君の携帯を使ったと・・・。」


そうだよな・・・連絡は取れなかったはずだ。


「印鑑の言い訳をした時から君への不信感は募ってたよ。君、言ったよね。私、渡辺君の家あんまりよく知らないから・・・って。普通あんまりよく知らない家に直接印鑑を渡しに行くはずがないだろう?まぁ渡辺君と君が親密な仲だと言うならまた話は変わってくるが・・・。あれはあの場所に僕がいると思ったからだ。それは僕が会社を休んで昨日の待ち合わせ場所にいるんだと踏んでの事だろう。」


「そう・・・あの時にもう勘付いていたのね。だったらもっと早く接触できたのに・・・。」


「そして接触できる機会を伺っていた君は、機を見て僕に空メールを送った。僕が不審に思って返信して接触してくる機会を狙ってたんだね。」


「そうよ・・・もしあなたが私の事に勘付いていなくても、死んだはずの人間による不審なメールからこのメールはきっと犯人からのメールだと思うとね。そして逆に犯人を追い詰めようとしてメールを打ってくるに違いないと踏んだの。」

「まぁとにかくこうして会えたわけだが・・・しかし橘さんがここに来てしまったのは君にも若干予想外だったようだね。」

「そうね。静香がいずれ私を尾けてくるだろうというのはわかっていたけど、まさか今日だとは思わなかったわ。それにあなたに呼び出された時に限って尾いてくるんですもの。静香の執念には正直完敗だわ。」

「・・・幸恵、どうして私が尾けてくると・・・?」


橘さんの質問に対し答えたのは長谷川さんだった。


「それは大方、御堂さんが橘さん・・・君にも何かしらメッセージを送ったからだろう。まぁそれがなんなのかまではわからないけどね。」

「・・・長谷川さん、あなた本当に鋭いわね。」

「御堂さん、君は”見つけて”ほしかったんだろう?橘さんに。」


「・・・意味が・・・よくわからないわ。」

橘さんは言った。

俺も橘さんと同じ心境だった。

俺にも全然意味が・・・。

長谷川さんがここまで色々な事を考えていたなんて・・・くそ!


「最初はそんな気はなかった。でもね、静香の沈んだ気持ちと、祐二さんの事を考えるとどうしても静香に・・・祐二さんを合わせないといけないと思ったの。」

「・・・幸恵。あなたやっぱり祐二の居場所を・・・。」

「ええ、知っているわ。」


祐兄の居場所・・・!!

この女・・・兄貴と一体どういう仲なんだ・・・?

くそっ!!まだ全然話が見えない!


「静香、祐二さんの家の近くでキーホルダーを拾ったわよね。そして後日・・・今日だったわね。私が落とした鍵を拾った。それであなたは私が祐二さんの事、何か知ってると勘付いたんでしょう?」

「・・・そうよ。」

「・・・御堂さん。君が仕向けたんだね。自分が何かを知っているように橘さんに。」

「じゃあ・・・幸恵あなた、キーホルダーも鍵もわざと?」

「・・・そう。祐二さんの家の近くでうろうろしてたのも静香、あなたを待ってたのよ。あなたに拾わせて私に興味を持たせたかった。そして鍵も落とせばそれは確信に変わると思ったの。」

「どうして!?どうして私に直接話してくれなかったの!?」

「・・・直接知ってしまってはダメだったの。あなたが私を怪しんで私を尾けてきた先に祐二さんがいる・・・。そういう設定にしたかったのよ。だから今日の今、ついてきてしまったのは正直失敗だったわ。まぁ・・・もういいけどね。」



そこまで話すと御堂 幸恵は大きく深呼吸しゆっくりと近くのブロックに座り込んだ。

一瞬、言葉という音楽が鳴り止むとコオロギの鳴き声がBGMのように鳴り響く。





「・・・きれいね。」

「そうだな。もう秋なんだな。」

「・・・祐二さんもコオロギの鳴き声が好きだったわ。よく一人でこうやって聞きながらしんみりとしてたわよ。・・・きっと静香や修二君の事を考えていたんでしょうね。」




そしてコオロギの鳴き声は、真相への会話へといざなうように一瞬鳴り止む。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ