第三十六話 時満ちて
俺は貯水タンクの裏、ちょうど屋上の入り口から見て死角の位置に早めに待機した。
手には携帯のメール画面。これで直接対峙する長谷川さんとやりとりするつもりだ。
長谷川さんは屋上の入り口の直線上、一番すぐに視野に入りやすい場所に待機している。
いざという時の為に俺は、途中で仕入れてきた金属バットを片手に度胸を決めていた。
時間は・・・・2:40。少々早かったか。
一体どんなやつが来るんだろう・・・。
長谷川さんはああ言っていたが本当に犯人は来るんだろうか。
もしかしたらこないかもしれない。
俺は来てほしくない思いと、早く来いという思いが交差しながら極度の緊張状態を維持し続けていた。
これほどな緊張状態があまり続くと胃に悪いな。というか胃がキリキリしてきた・・・。
時間は・・・・2:45。まだ5分しか経っていない。この5分がなんだか恐ろしく長く感じられた。まだ・・・まだ来ない・・・。
誰が・・・どんなやつが来るんだ・・・。
呼吸を殺そうとするあまり逆に呼吸が乱れてくる。
そんな俺に比べて・・・堂々と立っている長谷川さんは正直すごい。
長谷川さんは場慣れしてるんだろうか?あまりにも恐れというか、そういう物を全然出さない・・・。
もしかして・・・誰が来るか知っている・・・とか?
はは、そんなわけはないか。考えすぎだ。
それより果たして話し合いで解決できるんだろうか?もし相手が100万を持ってきたらどうする?いや、それより逆上していきなりナイフとかで襲いかかってきたら・・・。
そうだ。
長谷川さんも言ってた。
金を払うくらいなら殺してしまおうという気で来るかもしれない。
俺は一応バットを持っているが、こんなもの役に立たないんじゃないか?
色々な考えが頭をよぎる。
コオロギの泣き声だけがリンリンと漆黒の夜に響く。
・・・・そうこうしてるうちに時は経った。
時刻は・・・3:00!!
・・・・・・誰も来る気配は・・・ない。
やはりあのメールでは相手に悟られたのか?
くそ・・・ようやく犯人のツラを拝めると思ったのに・・・!
時間が過ぎて相手が来ない現状になり俺はホッしてたりもした。
そのせいで強気な感情が出始めてきた。
その刹那・・・。
・・・・カツ・・・・カツ・・・・カツ・・・・カツ。
屋上への階段を上る一つの甲高い靴の音が響く。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・来た。
俺は一気に冷めた。
そして感情という感情が吹き飛ぶ。目の前の事実がどうこの目に映るか。それに集中する!
な・・・なんだと?
あれは・・・。
俺はあまりにもありえない目の前の光景に絶句した・・・。