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第二十九話 変わり始めた日々

祐兄がいなくなって三日目の朝。

母さんも正直冷静さを欠けてき始めてきた。


俺は帰ってから祐兄の事を母さんに尋ねてみたが特に連絡はなかったらしい。

俺も特別話しはしなかった。ただ見つからなかったよとだけ言っておいた。


「修二、朝食はどうするの?」

「・・・今日はいいや。」

「そう・・・。今日はアルバイトあるの?」

「うん。」

「修二も・・・気をつけなさいね。」

「・・・。」



・・・・どうしようか。

今日は長谷川さんは会社に行くと言っていた。

俺も一応学校に行っておこう。

一之瀬達にも・・・辛いが話しておくべきだし。


「じゃあ行ってくる。」

「行ってらっしゃい。」






たった二日、学校には行ってなかっただけなのだがやたらと久しぶりな感じがした。


「あ、修二おはよー!昨日と一昨日はどしたの?」


いつもの一之瀬の声がする。


「ああ・・・ちょっと用事があってさ。」

「ふーん?あ!それよりあの後、和弘君大丈夫だった?だいぶ気持ち悪そうにしてたけど。」


ああ・・・みんなで遊んだ日の事か。


「・・・・・。」


俺は唐突に出た和弘の話題に絶句した。


「な、何?どうしたのさー?」


一之瀬は・・・まだ知らないんだ。

当然三沢さんも、他のやつらも・・・。


「・・・後で・・・話すよ。」

「そう?あ、そろそろ時間だね。私はもう行くよ。んじゃまた後でねー。」


あいつが死んだなんてみんなすぐには信じられないだろうな。

悪い冗談だと笑いそうだ。

だが、真実だけは変えられない。

一之瀬や三沢さんは・・・泣くかもしれないな。


そう思うとどんどん気が滅入っていった。






午前中の講義はほとんどつつぬけ状態だった。

講師が何をしゃべっていたのかまるで思い出せない。

まぁ・・・いつもこんな感じだが。


これからどうするか、和弘の事をなんて説明しようか。

そんな事ばかり考えていた。




お昼過ぎ、俺はぼーっとしながら学食堂で食事を取る。


「・・・修二、元気ないね。どうかした?」


不意に後ろから一之瀬が話しかける。


「・・・別に。」


一之瀬が悪いわけじゃないのだがなんとなくきつい口調になってしまう。


「何よその言い方。心配して言ってあげてるっていうのにさー!」


余計なお世話だ。と言いたくなるのを我慢した。それが精一杯の努力だからだ。


「・・・悪い。」

「ほんと、なんかあったの?私には話せない事なの?」

「いや・・・」


話せるが話したくない。もうできれば和弘の事は考えたくなかった。


「じゃあ教えてよ!何があったの!」

「・・・今日、一緒に帰るか。」

「え。」


一之瀬は驚きながらちょっと照れ隠しのようなそぶりを見せた。


「・・・その時にみんな話すよ。」

「・・・わかったわ。じゃあ帰りにね。」


俺は残りの飯を一気にたいらげた。

















「お待たー!ごーめんごめん、亮子がなかなかしつこくってさ。」

「いや、俺もさっき出てきたところだよ。」

「そっか、んじゃ帰ろっ。」


なんだか知らないが一之瀬はご機嫌のようだった。

まぁ・・・なんとなくわかるか。




「でさー、ちーったらその時、鼻水たらしながら泣いてたんだよ!もーそれがすっごい面白くってさみんなで・・・・」


一之瀬は俺を気遣ってるのか、それともただご機嫌なのか、やたらとしゃべっていた。

俺は和弘の事を切り出せずにいた。


「笑っちゃうよね!あ、そういえばなんだっけ?修二なんか考え込んでたでしょ。」

「ああ・・・。」


来たか。俺は・・・一層真剣な顔つきで軽く空を見上げながら立ち止まって言った。


「・・・言っとくが、俺が今から言う事は全部本当の事だ。決して悪ふざけとかじゃない。だから・・・。」

「うん、わかってる。笑わないで聞くよ。」


一之瀬は結構鋭いのかもしれない。

俺が言い終わる前にさらに神妙な面持ちで俺を見ていた。


「・・・和弘が・・・死んだ。」

「・・・・!」


一之瀬は声にならない声をあげているような表情をいっぱいに出していた。


「ど・・え・・なんで・・・本当に?」

「悪ふざけはないって・・・言ったろう。」

「う、うん。・・・和弘君が・・・なんで・・・。」


一之瀬の顔の血の気が引いていくのがわかる。


「・・・飲み屋を出たあの後、俺たち別れたよな。そんで俺は和弘を家まで送っていったんだ。その時までは別に何もなかった。次の日、俺は親父の墓参りをしてたんだ。その時警察が俺のところにきて和弘が自殺したって聞かされた。」

「・・・・。」


一之瀬の表情は真剣に俺を見つめている。


「俺が遅くまで和弘と遊んでいたのを誰かに見られたんだろうな。警察は俺に和弘とどこにいたかとか、しつこく聞いてきたよ。和弘は・・・俺が家に送った数時間後の夜中、首を吊って死んだ。」

「そんな・・・。」

「俺だって信じられなかったさ!つい昨日までぴんぴんしてて俺たちと遊んでたんだぞ!」


つい強い口調になる。


「ご、ごめん。俺つい・・・。」

「ううん、しょうがないよ・・・。」


そして俺は一之瀬に和弘が死んだ後、俺の兄貴が失踪した事、兄貴がもしかしたら殺人事件に関与している可能性がある事、兄貴を探していた事などあらかた話した。



「・・・大変だったね。」

「まぁ・・・あ、一之瀬。」

「何?」

「この事、絶対誰にも言うなよ。和弘の事知ってるやつに今この事知られるのは騒ぎになるだけだからな。」

「そう・・・だね。わかった黙っとく。」

「まぁ、そういう事だからさもしかしたら俺、学校この後何日かまた休んだりするかもしれないけどその時は・・・まぁそういう事だから。」

「・・・うん。」

「後、気をつけて帰れよ。殺人事件がどう兄貴に関わってるか知らないけど、間違いなくこの近辺に人殺しが潜んでるって事なんだからな。」

「わかった・・・ありがとうね。色々教えてくれて。」

「ああ・・・俺も話したら少しスッキリしたし助かったよ。」

「あまり根をつめすぎないでね。」

「お前もな・・・和弘の事は忘れて普段通り生活しろよ。」

「・・・・。」


俺たちはしばらく黙って歩くと、帰路に別れたのだった。












そういえば、長谷川さんは今日何か新しい情報とか会社で手にいれたりしていないのだろうか。・・・でも仕事中に連絡を取るのはまずいな。

あっちから連絡が来るのを待とう。

橘さんは・・・今日も祐兄を探して街を走りまわっていたんだろうか。


もう・・・なんか疲れたな。今日はバイトは休んで家に帰ろう。

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