第二十六話 覚めない夢
男は一人、屋上にたたずんでいた。
「・・・まるで長い夢を見ているようだ。」
男はつぶやく。
「俺は目が覚めたらいつものように仕事に行き、いつものように汗を流し、いつものように彼女に電話をするんじゃないか・・・?」
深淵の夜は何も答えない。
「・・・これが現実・・・か。」
コオロギの鳴き声が現実感を呼び戻す。
秋風が心地よい。
それと折り合いをつけるコオロギの鳴き声は俺のすさんだ心を微弱ながら癒してゆく。
「だがこれで正しかったはずだ。俺は俺の正義の為に事を起こした。全てを片付けほとぼりが冷める頃には俺もきっと前の日常に戻れるはずだ。」
俺はそれを見つめながら独り言のように言う。
どうしてこんな事になったんだろう。
ばかな、自分で決めた事だ。何をいまさら・・・。
くだらない自問自答が自分を削ってゆく。
だが、これを実行するまで終わりはないのだ。
こんな事になったのも全てあの忌まわしい過去のせい。
過去に決別を付ける為に俺は意を決した。
だがきっかけがなければ今も俺はあそこにいた。
きっかけが悪いのか?
過去が悪いのか?
だが・・・
もう後には引けない。
もう戻れないのだろうか?
まだ戻る気でいるのか?
戻る気がなければもっと単純な話しだったろう。
戻る気があるんだな?
俺は・・・。
入手ルートなんて金さえ出せば結構あるものだ。
これがほしかった。
これが全ての決着をつける。
これで全ての決着をつける。
これは全ての決着をつけさせる為に俺の手元にあるのだ。